朝,3日目の朝食を取る。ついにベトナム料理もあまり食べられなかったな。フォーも食べたかったな。と思いながら,バイキング料理を取っていると。そのフォーらしきものを持っている人がいるではないか。その人のたどった道を頭の中で逆回転させると,屋台のようなものがあり,小鉢が並んでいる。あ,フォーだ。何で今まで気が付かなかったのかな。早速取ってきて食べる。黄色いタイプの麺で,油の浮いたスープがかけられている。米の麺だが,味はラーメンだね。ただ,パクチー(香草)の香りはやはり東南アジアだ。
 フォーは北の方のハノイあたりが本場らしいが,ここでも道端で皆食べているし,郊外でもたくさんの看板をみた。日本で言えばラーメン屋のようなものか。
 念願のフォーの一端も垣間見れた。お腹の方は下痢続きという以外は何ともなくなった。
 荷物をまとめ,チェックアウトし,朝日の中ホテルを出る。既に30度は超えているだろう。
 ホテル前に次々と回り込むタクシーに,ドアマンが客を押し込んでいく。僕らの番になって滑り込んできたのは,普通のタクシーだ。エアポートタクシー以外は空港入場料を取られるはずなので,躊躇したが,ドアマンが大丈夫というようにうなずくので,乗り込む。
 運転手はブスッとした若い男だ。朝靄の中快調に飛ばし,30分ほどで空港の入り口に着く。入場ゲートで案の定お金を払っている。せいぜい2,3十円ぐらいのはずだ。
 ターミナルビルに着いた時メーターは5万5千ドンを指していた。いいところだ。しかしこの兄ちゃん,後2万ドン払えとい言う。冗談じゃないそんなの払えるか。入場料に2万ドンかかったと言い張る。そういえば,ゲートでの金のやりとりが不自然だった。お金を手のひらに隠すようにして,こちらには決して見せなかった。
 そんな高いはずないと負けずに言うと,兄ちゃんの目つきが鋭くなった。横に座っていた僕はそのぐらいでビビルようなタマではない。何度もそんなの払えないと繰り返す。後ろの二人が降り,僕も無視して降りようとすると,兄ちゃんは車を動かそうとする。トランクの荷物を人質に取られているので,不利だ。やむなく睨み合いながら払う意志がないことを繰り返す。兄ちゃんも決して譲ろうとしなかったが,ついと表に出てトランクから僕らの荷物を降ろした。席に戻ってきたので僕がまた眼飛ばし合戦を開始しようとすると,Nさんが,もういいから行きましょという。彼は決して折れないが,荷物を降ろしたのがサインだったのだろう。僕もちょっとコノヤロと興奮していたが,Nさんから言われて我に返った。その根性に免じて6万ドンわたし,勝手に降りる。
 最後の最後まで楽しませてくれる。僕らも慣れっこになって,わーっと言い合った後は,後を引かず,すぐ忘れてしまう。これだけ暑いと考え方もラテン的になってくるらしい。
 空港税をしっかり徴収され,待合室へ。
 出発ロビーは意外と広く、お土産屋もたくさんある。観光客も多く、日本人もちらほら見かける。
 次のマレーシア情報でも検討しようとガイドブックを見ようとすると、誰も持っていないという。ホテルに忘れた?またかよー、と各自バッグをひっくり返す。やっぱり無い。もう,しゃあない,と今回は原因を追及することもなくあっさり諦める。
 でもホテルの場所もよく分からないし、困ったなあ。
 まあ何とかなるさ。僕はベトナムでは何一つ買い物をしなかったので、伝統音楽のカセットテープを買う。
 そのうち、Nさんがマレーシアのガイドブックを持って現れた。ちょうどそれを持っている女の子を見つけ、借りたという。彼女はベトナム各地を一人旅してきたらしい。Nさんはクアラは前にも行ったことがあるので、ホテルの場所もすぐ確認できた。これで安心。
 時間が来て、飛行機に乗り込む。
 離陸後,窓から見える濃い緑とそれに埋もれた街並み。子供の時の記憶のどこかに確かにあるような,真昼の照り返し。
 ベトナムは僕らがいなくなっても,今日は今日の,明日は明日の一日が繰り返されていくのだろう。そんな当たり前の感慨が胸を甘くする。
 さらばベトナム。