翌朝目が覚めると,かなり痛みはおさまっている。いつの間にか少し眠ったらしい。
でも,まだしくしくする感じだ。グルメの僕としては色んな食べ物にトライするつもりだったけれど,今回はもう無理なようだ。道ばたの屋台も試したかったけどなあ。魔女め。まだ言ってる。
朝食のバイキングは南国らしくよくわからないフルーツやまずいスイカジュースなど,多彩だ。面白いのは中央のコーナーで女性コックがベーコンエッグなど火を使った料理を行っていることだ。卵の焼き方もサニーサイドアップとかスクランブルとか客の注文に応じて作ってくれるのだ。
食べながら今日の予定を話し合う。昨日7$で一日中引きずり回されたせいで,クチトンネルツアーも行こうという者はさすがにいない。僕の体調もあるので,今日は一日のんびりしようと言うことになった。
まず,最高級ホテルを堪能しようということで,屋上のプールに行ってみる。入り口にスタッフがいてタオルを貸してくれる。真っ青なプールに人影はまばらだ。プールサイドのスタンドから飲み物を買い,イスに寝転がる。遠くのサイドでスタイルのいい女性がプールに飛び込み,3人は「おっ」と体を起こす。一泳ぎして水を滴らせながら上がった女性がこちらを振り向く。3人は何事もなかったようにまた寝転がり日光浴する。その女性は年輩,というかむしろお婆ちゃんといっても過言ではなかったのだ。生け垣の向こうで玉の打ち合う音が聞こえる。テニスをやっているらしい。
帰国後,新進ベトナム人監督トラン・アン・ユンの「シクロ」という映画を見ていたら,ラストシーンでまさにこの屋上プールとテニスコートの鳥瞰映像が使われていて,驚くことになる,なんてことはまだ知る由もない。
目をつぶってウトウトすると不思議な感覚になってくる。ここはベトナムだよな。何で俺たちここにいるんだ。
昼近くまでのんびりして,そういえば帰りの便のリコンファームをしていないことに気づき,マレーシア航空のオフィスに出かけることとした。
途中Nさんはお土産屋を何件かひやかす。明日朝の便で立つのでそろそろ買い物もしておかなくてはという。僕は特に欲しいものもないし,何度も言うように金欠気味なので,遠慮する。ベトナム土産には本当の伝統工芸品はなく,僕にはほとんどがオモチャ的にみえる。戦争の影響かも知れない。米兵が残したという触れ込みのジッポライターも今は全て偽物だという。観光にしても特に有名な遺跡があるわけでもない。でも自然と人々の生活そのものが十分興味深いし,魅力的だ。
マレーシア航空のあるドンコイ通り、レロイ通りあたりはヨーロッパ風の瀟洒な建物が続き,かつてのフランス統治時代を偲ばせる。
リコンファームも無事終え,川向こうのホーチミン記念館に行ってみることにした。橋を渡りながら対岸を見ると,スラムのようにバラックが密集している。あのようなところに観光客の目には触れない真実の生活があるのだろう。記念館は広大な庭園の中にあり,人影はまばらだ。内部はホーチミン氏の業績をたどる写真や遺物が展示されている。僕らの他にはどこか田舎から出てきたようなベトナム人家族が見物しているだけだ。テラスに出ると,川に大型の観光船が係留されており,その向こうに先ほど見たバラック群が広がる。富と貧,北と南,サイゴンとホーチミン,象徴的に思える風景の中で僕らは暢気に記念撮影をした。
橋を戻り,遅い昼食を食べようと川沿いのマジェスティックホテルに入る。ここはいかにもトロピカルホテルで,開口健がドライマティーニを飲みながら逗留するなど著名人も多く滞在した有名ホテルらしい。そんなことは旅行前はつゆ知らなかったので,次回はここがいいねとお気楽にしゃべりながら,最上階のレストランに昇る。しかし,ランチタイムは終わったのか,閉まっていた。
そこで近所のカフェに入る。フランス風のおしゃれなつくりだ。セルフサービスでサンドウィッチとコーヒー。フランスパンが流石においしい。Nさん,Mちゃんはゆで卵もつけた。2回の窓際の席で外を眺めるとパリにいるような錯覚に陥る。
いったんホテルに戻ることにするが,Nさんはお土産を買って帰るという。
ホテルでMちゃんと無駄話をしながら外を眺める。
道路は相変わらずバイクの群,向かいの歩道にはイスを持ち出した爺さんを中心に4,5人の男が何をするでもなく座り込んでいる。暇そうだ。そこここにシクロの客待ち姿が見える。食堂から出前らしき女性が出てきて、きびきびと道路をわたる。女性の方は皆忙しそうに荷物を持って行き来している。
2階建ての建物の裏手の方に目を凝らすと,増設に次ぐ増設を重ねたような小屋が並び,屋上で若夫婦が植木に水をやったり,背伸びをしたりしている。
Nさんは以前タイのホテルで向かいの建築工事を一日中見ていたという。それを聞いてせっかくの旅行なのに何と暇なことを,とバカにしたが,それは誤りだった。
Nさんが戻るまで2時間近く眺めたが,全然飽きない。一人一人の人生を想像してしまう。