8月30日(月)
何を隠そう、僕はアジア映画の大ファンだ。
特に好きな監督と言えば、中国のチャンイーモウ、香港のジョン・ウー、ウォンカーワイ、ベトナム(フランス)のトラン・アン・ユン。みんな世界的監督になってしまったけれど、初期の頃から大ファンだった。
そして、台湾と言えば、ホウ・シャオシェン監督。
初期の青春映画もいいけれど、やはり最高傑作は「非情城市」だろう。
この映画の舞台となったのが、かつて金鉱で栄えた街”九分”だ。(分はニンベンが付く。しかしこの漢字はJISに入っていないので表示できない。イ分とか工夫している人もいるが、ここでは分にしておく。)
近くに十分という街もあるから、東北の一戸、二戸など同じような呼称かも知れない。
台北の近郊にあって、往時の面影を残すのみの寂れた街だったが、この映画で有名になって以来、すっかり観光地化された。
とはいえ、やはりこの映画に感銘を受けた者にとっては聖地だ。是非とも巡礼したい。幸いNさんも賛同してくれた。
朝はマックで軽く済ませ、台北駅に向かう。
切符売り場で、時刻表で事前に調べて紙に書いた者を渡す。9時45分発の呂光号(呂はくさかんむりが付く)だ。だいたい45分ぐらいで着く。
窓口の職員は、怖い顔をしたオッサンだ。愛想も悪そうだ。渡した紙をじーっと見つめて、ダメという仕草。予約が埋まって、もう席がないらしい。
あらら、困ったな。
すると、その紙に10:30自強号と書いて示し、それなら空いているという。なんだ顔は恐ろしいけれど親切じゃないか。一も二もなくその便にする。


時間が空いたので、僕は外に写真を取りに行くことにした。
月曜日の朝、首都の中心の駅前。このシチュエーションそのままに、せわしない勤め人が大河となって幾筋も流れており、車道ではスクーターの群れが車を囲む急流となって排気音を曇り空に籠もらせている。
少し駅から離れて歩いてみる。
道沿いの商店や食べ物屋、銀行、宝くじ、バスターミナル、何かの会社。
朝の埃っぽい光の中で、忙しく立ち働く人たち。
彼らが注ぐエネルギーで、眠たげに強ばった建物群がようやく蠕動し始める。
思わず僕も足早になる。急がなくちゃ。急がなくちゃ。
あ、オレはいいのか。
結構遠くまで来てしまった。そろそろ出発の時間だ。戻らなくちゃ。


駅でNさんと合流し、自強号に乗り込む。ダイヤは正確だ。
やがて動き出した車窓の変化。
飽きずに楽しむ。




30分ほどで麓の瑞芳駅に降り立った。小さな田舎の駅だ。
白っぽい光が降り注ぐ駅前広場でタクシーを拾う。山腹にある九分の街まではここからバスかタクシーでで登る必要があるのだ。
タムロしているタクシーに近づくと、太ったサングラスの運ちゃんが声をかけてくる。ちょっと悪そうな奴だ。聞くとメーターではなく交渉制だった。150元だという。事前にガイドブックでメーターでは120元ぐらいと書いてあったように記憶していたから、まあそのぐらいならいいかと、乗り込む。

山道をしばらく走り、旧道口という狭い路地の入口にたどり着く。
ガイドブック片手に九分の路地に分け入っていく。
なるほど、観光客もたくさんいる。
路地の両側には、お土産屋とか、食べ物屋が並んでいる。






しばらく進むと、メインの路地に出た。そこは麓から頂上近くまで続く階段になっている。両側にはノスタルジックな建物が連なり、提灯がぶら下がっている。階段を見下ろす視線は遙かに霞む海と港町に誘われる。映画の舞台となった場所だ。
ひとまず、展望所のようなところへ行ってみる。九分の街並みが眼下に広がる。深い緑の山の中腹に錆び付いたような建物が張り付いている。かつてゴールドラッシュで栄えたことの面影もない。そして海。






階段を一番上まで登ってみる。
突き当たりに小学校の門があり、横にかき氷屋がある。こ汚い店先でランニングの親父さんが作っている。40元。
Nさんが食べるという。僕はそれほど食べたい気が起こらず、衛生状態にも若干の不安を覚えて、遠慮することにした。
トッピングは例によって甘い煮豆や団子、真っ黒なゼリーなど。
テーブルなどは店の奥にあるらしく、他の人の後について入っていく。なにか自宅の中を通り抜けるような案配だ。
芋団子を製作している部屋もあった。九分は芋団子が名物らしい。

さらに、入り組んだ内部を歩いていくと、やっと食堂のようなスペースにたどり着いた。壁の一面がガラス張りになっており、外の景色を見ながら食べられる。
スプーンを二つくれたので、僕も一口味見させてもらう。あ、美味しい!すごく美味しい!
やっぱり僕も買ってくるわ、と40元を握りしめて買いに戻る。


戻ってくるや否や、Nさんに3点ほど非難される。
1:最初から素直に買うとけばいいんや
2:ツバの付いたスプーンを僕のかき氷に挿して行かないでや
3:一口分返してや
いやいや、ごもっとも。
このかき氷、QQ芋圓といって、作り方は、かき氷をドバッと入れ、芋圓(タロコ芋の団子)、小豆、地瓜(サツマイモ)、緑豆の餡、それに薬草で作るらしい真っ黒の仙草ゼリーをチャチャッと乗っけて、蜜をかける。
モワンと蒸し暑い中、汗をかいて階段の天辺まで上がり、疲れて火照った体。そこにこの甘さ、冷たさが優しく染み渡る。シミジミ美味しい。
QQ芋圓はホットもあって、そちらはお汁粉みたいだそうだ。
QQというのはモチっとした感触を指す表現で、随所で見かけた。
シャクシャク、モチモチと嬉しい気持ちで食べていると、隣に座ったグループの会話が気になった。
男一人、女2人、30代ぐらいの日本人グループだが、台湾の悪口ばかり言っている。あの観光地がたいしたことないとか、料理が口に合わないとか。しかも、お互いの行動まで非難し合ってる。全てネガティブな内容で、こちらまでイヤな気分になってきた。だったら、一緒に旅行なんてしなければいいのにねー。でも、悪口を言い合うのが彼らのバランスの取り方のようでもある。変なグループだった。
ともあれ、彼らが席を立ってホッとする。


九分でのToDoのひとつは、茶藝館でマッタリすることだ。高雄や台北市内でも茶藝館らしき店は見かけたのだが、何となく敷居が高くてまだ入っていない。
ご存じない方のために説明すると、茶藝館とは中国茶の喫茶店のようなものだ。ただし、高級かつ凝ったインテリアの店で、昔ながらの作法に従って高級茶をゆっくり嗜む、というイメージ。お茶の葉を使った料理などを出すところもあるらしい。
とにかく、日本でもたまに中華料理と共にウーロン茶を飲むぐらいで、中国茶に詳しいわけでもないから、どうも気が引けてしまう。
でも、九分の茶藝館は眺望が良くて最高だよ、と事前に推薦してもらったこともあり、是非トライしてみるのだ。
何軒かの中で、非情城市のロケに使われたという阿妹茶館にする。もっと様子のいい店もあるらしいが、ミーハー魂を最優先だ。
狭い階段を上り店に入ると、一階の窓際のテーブルに案内される。テーブルの端には大小のお盆を二段重ねにしたような、石造りのお湯こぼしが設置されている。
従業員のお姉さんがやってきて、木札を紐で繋いだ木簡のようなメニューを出される。どれも結構高い。
躊躇する僕らを見かねて、いくつか推薦してくれた中から、一番安いお茶にする。烏龍茶の茶葉500元。これと、お湯代が一人100元ずつかかるという。計700元。2000円以上だ。やはり結構高いな。


茶器セットと茶葉が持ってこられた。全然やり方が分からない。どうするべ。
まごつく僕らを見て、この店のオーナーらしきおじいさんが現れた。
流ちょうな日本語で入れ方、飲み方を懇切丁寧に説明してくれた。
急須に茶葉を入れてお湯を注ぎ、これをすぐ茶碗に注ぎ暖める。残りのお湯は捨てる。
次にもう一度お湯を注ぎ、20秒(だったかな)経ったら、茶碗に注ぐ。
この茶碗も2種類あって、一つは円筒形、もう一つは口の開いた普通の茶碗で、いずれも白磁の小さなものだ。
お茶はまず円筒形の方に注ぐ。その上に、もう一つの茶碗を逆さにして蓋のようにかぶせる。
そこで、この合体した茶碗をエイッと上下ひっくり返す。
お茶は円筒形の方に入ったまま、出てこない。
そこでおもむろに円筒形を持ち上げると、お茶が口の広がった方の茶碗にドバッと漏れ出てくる。
さて、この円筒形の方を両手のひらで包み込み、鼻の前で錐を揉むうにぐりぐり回す。そう、香りを嗅ぐのだ。
そうすると、あらら不思議不思議、なんと濃厚なミルクのような懐かしい香りがするじゃないか。この香りはお茶によって様々らしい。
何度嗅いでもお茶ではなくミルクの香りがする。
そして、お茶をゆっくり頂く。
お茶請けに出された梅の砂糖漬けもしみじみ美味しい。






開け放した窓からは、海から吹く微風がときおり額に届く。
贅沢な時間だ。旅行に来てホントに良かった。
お茶は日本茶と違い、数度は美味しく飲めるという。一煎毎に抽出時間を伸ばしていく。
お茶の葉を入れ替えるとき、Nさんが自分でやってみると言いだした。
先ほどのご主人のやり方を思い出しながら、なんとか煎れることが出来た。
ちょっと手順も間違えたけれど、ちょっと味は先ほどより落ちるけれど、美味しいよNさん。
ご主人が一緒に座って昔話をしてくれたり、じゅうぶんマッタリした。
残ったお茶はかわいらしい容器に入れて持たせてくれる。
満ち足りた気分で店を後にする。




階段の道をゆっくりと下まで降りる。昼になり結構観光客も増えてきた。
振り返ると、頂上まで続く階段に覆い被さるように建物が重なっている。
切り取られた空は綺麗に晴れている。
ほんの一瞬だが、昔の栄華のざわめきを幻視したような気がした。




階段を下りきって、ひっそりとした道を歩きながら流しのタクシーを待つが、なかなか来ない。
しばらく行くと、バス停があった。おじさんが一人待っている。と言うことはもうすぐバスが来るのかも。
案の定ほどなく麓の駅まで行くバスが来た。料金もシステムもよく分からない。でも乗っちゃえ。
料金は後払いのようだ。駅に着くと電光掲示された料金は一人19元だった。
しかし細かいのがないから、やむなく2人分で50元玉を料金箱に入れた。お釣りはくれそうもない。
いいや、それでもタクシーより断然安いし。

駅で台北行きの自強号の券を買う。来るときと同じ料金なのに何故か自由席だ。
時間まで、近所をぶらっと散歩する。地方都市の風情が飽きない。
屋内市場、塾の看板、こ洒落たアパート、古いバイク屋、色褪せた布団、生活の匂い。
昼下がりの濃い影。








自強号は割と混んでいて、Nさんと別々に座る。しばらくして僕の隣が空き、Nさんが移ってきた。
最初にNさんが座った席はどうやら予約席だったらしく、途中の駅で乗ってきたオバサンに指摘されて別な席に追い出されたという。
そのオバサンにフンッと鼻を鳴らされて睨まれたという。
Nさんは「フンッて鼻ならされた」と何度も愚痴っている。
ホテルに戻り、チェックイン時にもらったサービス券を使用して、ラウンジで冷たい飲み物を飲む。
Nさんは今日が最終日だ。
Nさんのチケットはマイレージサービスのだから自由がきかなかったし、一方僕の方は週2便しか出てないから、帰りは別の日になったのだ。
今のうちにホテルの清算しておくことにした。ついでに空港バスの時間も確かめる。何たってNさんは早朝の便だから夜明け前ぐらいのバスじゃないと間に合わないのだ。
そうそう、お土産も買って置かなくちゃというNさんに僕が提案する。
先日一人で駅の地下街を探索したときに、何か人を引きつける人形を見つけたのだ。
子供が読書したり、思い米袋を持とうと力んでいるところなど、かわいい仕草、ユーモラスな表情で表現していた。まあお土産用かも知れないがなかなか目を惹いた。確か人形作者の名前も出していたから、有名なんだろうし。
じゃあ行ってみようと言うことで、再度街へ繰り出す。
例の地下街をぐるりと一回りして、問題の店を発見。Nさんも気に入り、4個セットだと安いので、2個ずつ選ぶ。値段は、お土産だし、あえて秘す。
同じ店に、お土産用の烏龍茶が置いてあった。専門店では結構なお値段だが、ここのはお手ごろ価格だ。かといって、本場のものに間違いはないし、Nさんはこれもお土産用に買っていくという。
戻ろうと、しばらく歩いていると、Nさんがなにかぶつぶつ独り言を言い始めた。突然、「お茶もう一個買うてくるわ」と言うや、先ほどの店へ戻っていった。お土産対応表を頭の中で整理していたらしい。
僕はその辺の店を冷やかしながら待つ。
Nさんが戻ってきた。
「これでよしと。あの店のおじさんニコニコしてたわ。」
良かったね。
しばらく歩いた頃またNさん。
「あ、ちょっと・・・。もう一個買うておくかな。ちょっと待ってて。」
いいよ、いいよ。
戻ってきた。
「オジサン今度は不思議そうな顔してたわ」
だろうさ。一個ずつ何度もお茶を買いに来る男。きっと今晩うなされるよ。
ようやく満足して長い通路をそぞろ歩く。Nさん突然無口になって何か考え出した。
「ごめんっ。もう一個足りない」
なんと!いいよいいよ行ってきな。待ってるし。
カナリ店から離れてしまったので、しばらく待たされる。その間変なハープ専門店とか怪しいCDソフト屋などを覗いて待つ。
戻ってきた。
「オジサン、僕の姿見えたら、ビックリしてサッと店の奥に隠れたわ」
カワイソウに。
何かちゃんとした中華も一度食べたいね、と高雄にいたときから話しており、今夜も、Nさん最後だしどこか高級レストランに、という話も出た。
しかし、すっかり夜市の魅力の虜となってしまった我々は、今宵も士林夜市で過ごすことにしたのだ。
MRT駅を降りると、士林夜市は今夜も変わらずお祭り状態だ。これが毎日毎日永遠に続くのか。クレイジー。なんていい街だ。
人混みをかき分けながら一巡し、今日は火鍋を食べることにした。街中いたるところで火鍋専門店を見かけた。人気があるのだろう。辛いスープで肉を食べるもののようだ。
ここの店は、若い男女が黒いTシャツのユニフォームを着て客引きをやってる。店の前に鍋を並べて調理し、視覚や嗅覚にも訴える。訴えられるところにはスベカラク訴える覚悟らしい。
店内に案内されると、コンロ付きのテーブルがズラリと並び、ほぼ満席だ。中国語でまくし立てられながら、何とか麻辣火鍋の中辛を注文して待つ。
具材は僕は鶏肉、Nさんはちょっと高いカニを頼む。関西人はホンマにカニ好きや。
しばらくして店員が焼けた鉄鍋を二つ持ってきた。具材は既に煮込まれている。
あれ、両方とも鶏肉だよ。Nさんが泣きそうになって店員に抗議するが、言葉が通じない。指でハサミを作ってチョキチョキするが、キョトンとされる。どうなるカニ鍋!
見かねた隣の席の地元女性が、店員に説明してくれて、ようやく理解されたのだった。
真っ赤なスープに骨付きの鶏肉とか野菜がタップリ入っている。Nさんのカニはワタリガニのようだ。スープは少なめで鉄の鍋肌で肉を焼くようなスタイルなので、すき焼きに近い感じか。辛さもちょうど良い。
鶏肉は骨付きだが、食べ終えた骨を入れる容器がない。まわりを見ると、テーブルの上に直接置いている。この辺ちょっと日本と感覚が違うが、見習って食べかすはテーブルに置く。
そのうち、店員が鍋にスープをタップリと継ぎ足した。これで今度は本来の鍋料理の感触となる。
具を食べ終えると、最後に麺を入れてくれた。3度味の違いを楽しめるのだ。
これで100元以下だから、やっぱり夜市はお得だわ。




満足でタップリとした気持ちになって店を出ると、暑さと辛さで噴き出す汗に、外気が心地いい。
また、人の流れに分け入り、ブラブラ歩く。
やはりお盆だからだろう、夜市の一画にあるお寺で何かの行事をやっていたり、広場の特設ステージで京劇や歌謡ショーのようなものをやっている。
それらを暇そうなオジサンや子供、店の人たちがぼんやり見ている。




さて、次は何を食べようかな。そうだ、臭豆腐を試してみよう。
臭豆腐とは、何やら豆腐を発酵させたもののようで、よくテレビの紀行番組とかでタレントが口にしてオーバーアクションをしている。納豆とかくさやとかシュールストレミングなど”慣れれば美味しい”系らしい。街中のスタンドでも普通に売っていて、地元の人たちが朝っぱらから美味しそうに食べているのを何度か見かけた。
これを食わずして台湾の食は語れまいと、ちょうど近くにあった屋台で食べてみることにした。臭豆腐と野菜の炒め物を一人前だけ頼む。
ほんの一皿なのに、ちゃんと小皿や箸も2つ用意してくれるのは、さすが食の国だ。
恐るおそる口にしてみる。
豆腐自体は結構干してあるもののようで、歯ごたえがある。それを切って油で炒めているので、厚揚げの食感に近い。
で、匂いの方は、確かに鼻曲がり系の臭みはあるものの、リポーターがクサい演技で走って逃げるほどの匂いではない。ちょっと腐りかけて酸っぱくなった厚揚げを食べているような感じかな。
でも、特に美味しくはなかったし、火鍋でお腹が一杯だったこともあり、一皿分食いきるのは困難と結論。
店の人には悪いけれど、残して逃げることにした。
最初客は僕らだけだったが、別なグループが座ったのを機に、一目散に席を離脱。こめん。

昨日の計画通り、僕も足裏マッサージを試してみることにした。Nさんは今日は上半身マッサージ。
店に入ると、昨夜Nさんを担当したオジサン職員が覚えていて、下にも置かない態度で迎え入れる。もう一人付いた担当はスレた感じのオバサンだ。
案内の途中、どちらを担当するかをめぐって小競り合いがあった。上半身、つまりNさんの方をやりたがっているようだ。結局オジサン職員が勝って、僕の足裏の方はふてくされ気味のオバサンが担当することになった。恐らく足裏の方が安いから実入りが違うのだろう。いやがられているようで面白くないな。
まず薬草入りのお湯に足をつけろと指示される。そのまましばらく放っておかれる。オバサンは他の職員と世間話。こちらはだんだんムッとしてくる。
時間制だし、文句を言おうとしたところで、ようやくリクライニングチェアーに案内され、マッサージが始まった。ここのは、足ツボをぐいぐい押すような感じではなく、柔らかく解きほぐすような感じだ。
確かに、うつらうつらしながら丁寧なマッサージを受けていると、とてつもなく気持ちがいい。愛想悪いし、なんだこのオバサン、と思ったけれど、裏を返せば腕に自信があるベテランということなんだろうな。とにかく抜群の上手さだ。
うんうん。全て許そう。極楽極楽。はー。
終わってNさんの方の話を聞くと、肩こり持ちにとってはちょっとヌルかったそうだ。ご不満の様子。彼にはタイ式の自虐的スタイルの方が合うらしい。
ぼくは足が軽くなってマリオネットになったような気分た。自然に踊り出しそうだ。
素朴なゲーム屋台などを冷やかした後、Nさん最後の夜のシメに、かき氷を食べる。
今回の旅、随分かき氷を食べた。
海外旅行では水に気を付けろとよく言われる。僕らもミネラルウォータや甘いペットボトル飲料を常用して、気を付けたつもりだ。
でもね、かき氷って生水なんだよね、きっと。途中までちっとも気が付かなかった。
こういう屋台でも、衛生状態には余程気を遣ってるようだし、まあお腹も壊さなかったし、各自自己責任でどうぞ。おいしいよ。
















夜遅くホテルに戻る。
Nさんは今日で旅行も終わりだ。
明日もとんでもなく早い時間のバスに乗らなくてはならない。
今回も一緒に旅が出来て楽しかった。感謝してる。
という気持ちをおくびにも出さず、軽口をたたき合う。
旅の形態は様々だ。どこに行くか、何をするか。
それと、誰と行くか。
一人旅もいい。恋人や夫婦連れもいい。そして、友達同士。
若い頃なら、友達とつるんであちこち行ったりすることは多いと思う。でも、仕事が忙しくなり、結婚し、子供が出来、と時間的にも経済的にも不自由になるにつれ、特に男どもは生活臭が漂うオジサンとなって足が重くなる。せいぜい奥さんの後ろにくっついて歩くのが関の山だ。
一方で女達は卒業旅行から始まって、OL同士のブランドあさり旅行から、ちょっと年配となると温泉癒し旅行、さらに町内会の慰安旅行、ばあちゃんとなってもツアーでちょっとアフリカに、と一人で、友達同士で気軽に旅行しまくっている印象だ。
ホントに羨ましい。
だから、Nさんがいつもヒョイと付き合ってくれてホントに嬉しいんだ。いい旅仲間に出会えたなと思っている。
大阪あたりは台湾よりよほど蒸し暑いらしい。もう年だし、身体に気を付けてよ。そして、またどこかへ行こうよ。
