8月29日(日)
台北の朝。まあまあの天気だ。
今日は軽く台北市内観光に行く予定だ。
朝はドトールで軽く済ませる。

まずはMRTで圓山駅へ。
駅から五分ぐらいの孔子廟へ向かう。
この孔子廟も修復工事の最中のようで、足場やシートが散在し興を損なう。
本殿の向かいで子供たちの野外授業らしき一行が座っている。
孔子廟の中で勉強すると試験に合格するというジンクスがあるらしい。受験シーズンには大賑わいになると言う。




続いて、その近くにある大龍同保安宮(同は山ヘンが付く)にも行ってみる。
医療、長寿の神として崇められている保生大帝を本尊とする道教寺院だそうだ。
孔子廟で頭が良くなって、ここで健康になろうという魂胆だ。
門前に人が集まっている。
なにか始まるのかな、と近づくと、ちょうど仮想パレードのような一団が門前の道路前にやってきた。お盆の行事だろうか。これはいいところに出会わせた。
山車を眺める僕の横で、寺男らしきじいさんがかがみ込み、何かゴソゴソやってる。
と、いきなり鼓膜が破れそうな大爆発音が足下で響いて、ヒッと2pぐらい飛び上がってしまった。爆竹だ!
ななな、何てことを!
ばばばばばばばばばと鳴り止まない。鼓膜に直接響く。
はあはあはあはあ、ビックリしたー。まだ耳がキーンとしてるよ。
このじいさんの足下には爆竹の束がある。そして、新たな山車が来るたびに火を付けて強烈な爆発を振りまいていていた。
きっと、出迎えなのか、お払いなのか、何かの意味があるのだろう。
山車もバラエティがあって飽きない。
トラックに家のような飾り付けを付けて、笛や太鼓を鳴らすもの、身長2メートル超の鬼に扮した一団あり、剣舞の周りで奇妙なカタチのラッパを吹く一行あり。
このお寺の前でそれぞれパフォーマンスを見せてから、どこかへ去っていく。
やー、いいものを見られた。






このお寺の向かいにもテントで覆われた大きな空き地があって、中にはお盆用なのか、奇妙なオブジェがズラリと並べられていた。
同じ仏教国でもやはり習慣から何から日本と随分違うモンだなあ。










続いて、駅をはさんで反対側の圓山ホテルや忠烈祠の方面に行くことにした。
タクシーに乗るほどでもないなと、歩き出す。しかし高速道路の迂回などがあって、思ったよりも遠い。
忠烈祠はいわば英霊を祀った軍事施設で、抗日運動の英雄なども祀られている。遊び半分の気持ちで行けるところではないが、Nさんが是非見たいというので、行ってみることにした。もちろん僕にも依存はない。
陽は高く、道は遠い。時折覗く太陽の強い光を遮るものがない。
Nさんがついに足が痛いと音を上げた。ここまで来てタクシーに乗るのもあほらしいから、休み休み頑張ってもらった。年寄りに無理をさせてしまったと反省。
この時、道端で嬉しい発見があった。ランタナという花が咲いているのを見つけたのだ。
この花は僕がネット上で仲良くさせてもらっている写真好きの人たちの間でブームになっており、この可憐な花の写真を何度も見ていたのだ。
でも、南国の花らしく、北海道で見たことはない。いつか見てみたいなとは思っていたけれど、そんなことはすっかり忘れていた。
それが、道端の緑の中から、こっち向いて、と声が聞こえたような気がして、目をやると、小さく可憐なランタナが、様々な色で一杯咲いてるじゃないか。
早速2,3枚写真を撮る。もっとじっくり撮影したいけれど、Nさんの状態もあるので、我慢する。
第一Nさんは実利優先の関西人、花鳥風月を解するタイプではないしな、と言ったら
「何を失礼な。関西には月亭可朝もおるし、風月堂かてあるでー」と怒る。


ようやく忠烈祠に付いた。
正面の門に2人の衛兵が立っている。奥の廟の前にも二人。
この衛兵が名物で、ピクリとも動かないのだ。
見物人が笑わせようが、記念写真を撮ろうが直立不動のまま前方を凝視している。
そう、ロンドンのバッキンガム宮殿の衛兵と同じだ。
ただし、こちらはカーキ色の軍服姿に銃剣付きの近代銃を掲げているので、バッキンガムのように、オモチャみたいでカッワイー、とか言う雰囲気は全くない。
流石に汗は止められないらしく、係員が拭ってやったり、霧を吹きかけたりしている。
Nさんによると、この衛兵に選ばれるのは名誉なことで、最終試験は蚊の群れの中に放り込まれて、それでも微動しないことを要求されるとか。
もうすぐ衛兵の交代式が行われるらしいので、それまで待つことにした。
静かだ。ただ蝉の声が大気を満たしている。
門から廟までの石畳に3本の筋が一直線に続き、日射しを照り返している。
毎日毎日衛兵が行進していくうちに軍靴が付けた筋だった。
その交代式が前触れもなく始った。一連の儀式が極めて厳格かつゆっくりと進行する。
僕らも含め全てが水中に沈んでいるような、遠い感覚。
ときおり銃剣がギラリと光る。
空に轟音が響く。
見上げると旅客機が一機、真っ直ぐ空を切り裂いている。






日射しを遮るものがないので、こちらも汗だくだ。近くの圓山ホテルでお茶することにした。Nさんの足のこともあるので、タクシーで行く。
このホテルは山腹にあって、いかにも中国的な様式の真っ赤な円柱や瓦屋根からなる巨大な建築物だ。観光名所にもなっている。
最初、このホテルに泊まってみようと思ったのだが、Nさんによれば、歴史的建物でもなく、単にコンクリートのハリボテだから意味ないよ、と言われて止めたのだ。
確かに間近で見ると、いかにも紛い物のあざとさが見て取れる。大阪城にエレベータが付いていて興ざめするのと同じだ。
しかしそれもキッチュな魅力と言えなくもない。内部はほんのり暗く、調度も一流とは言えないが、中国的雰囲気を出していて好感が持てる。
最上階からの眺めがいいとガイドブックにあったので、登ってみた。しかしここも改修中のようで、資材が散乱し、工事の真っ最中だった。
ロビーのラウンジで一息つく。僕はアイスコーヒー、ゲテモノ好きのNさんはスイカジュース。
ようやく人心地が付いた。


そろそろNさんはお土産も買って置かなくてはならないと言うので、台北の高級ショッピング街の中山北路へ、またタクシーで行く。すっかりタクシー慣れしてしまった。だって安いんだもん。
繁華街で降りると、ちょうと昼食時となったので、三越のレストランでスパゲッティ、グラタンなどを食べる。日本円に直すと普通の値段だが、夜市を経験したものにとってはビックリするほど高い。
Nさんは、またシャネル製の油とり紙を買っていくという。タイで買っていってあげたのが切れたとか。(ミャンマー・タイ旅行記参照)
店員さんは怪訝な面持ちで探し出す。
このあたりの高級ブティック街や、ホテルに入っているブランドショップ街も歩いてみる。やっぱりどれも高価だ。観光客のみならず、地元の金持ちも結構いるのだろう。
台湾はアジアの中では先進地域だし、ビジネス風土は日本より余程アメリカナイズされているとも聞く。だから、決して貧しくはないのだと思う。
しかも夜市に代表されるように、文化の裾野が豊かにひろがっている感じがする。
金がなくてもどうにかなるさ、といった南国的のどかさもある。
疲れたので、またタクシーでホテルに戻る。
Nさんは仮眠をとるようなので、僕は夕食前に台北駅あたりを散歩してくることにした。
夕刻のラッシュを眺めたりしながら、タイワニーズのふりをして散歩する。
駅構内を探検し、反対側に出てみる。地下への入口があったので、入ってみた。
すると、そこには大きな地下街が広がっていた。延々と続く2本の通路沿いに様々な店が連なっている。
どちらかと言えば観光客よりも地元の人相手の気取らない店が多い。所々の広場で、古本市や雑貨市のワゴンが並び、会社帰りの人や学生、オバサンたちが物色している。
こういう商店街って、僕は大好きだ。ワクワクキョロキョロしながら歩く。変なハープの店とか、怪しい電気店、違法っぽいビデオCDショップ、安い食堂、雑貨屋。そんな面白ショップが延々と続いて終わらない。
でもそろそろNさんも待ってるだろうし、と後ろ髪を引かれる思いでホテルに戻る。




今日の夕食は、待ってました、いよいよ台湾夜市の王様、士林夜市に突入だ。
まず、MRTで士林駅に降りる。
あれ、意外と静かな駅前だ。特に屋台らしきものもないな。
ガイドブックをも一度見ると、どうやら一個前の剣澤駅がメインらしい。まあ、一駅だしと、歩いていくことにした。
もうあたりはすっかり暗い。商店街がMRTの路線(ここらは地上高架)沿いに続いている。
最初は寂しげだった商店街の灯りが、次第にウキウキきらびやかになっていく。
そして、おー!まさに夜市があった。
狭い道に屋台がビッシリ張り付きその隙間をとんでもなく大勢の群衆が埋め尽くしている。
日本で言えば正月のアメ横並みの混雑だ。まともに歩けない。
まず挨拶代わりに肉まんを買う。豚と牛があり、一個10元。人だかりに割り込んで、握りしめた10元玉2枚を渡す。豚と牛の絵を指さす。人の肩越しに肉まんを入れた紙袋を受け取る。はー、これだけでもう疲れた。
これを食べ食べ端まで歩いてみる。
横道も何本もあって、とても全てをチェックできない。
規模と言い人通りと言い高雄の夜市の比じゃないな。
剣澤駅前に出たところでUターンし、今度は通路の逆側の店をチェックしつつ戻る。








肉まんもなくなったので、一番はずれにあった小籠包の店を試してみることにした。10個で40元だが、バラ売りもしているようだ。一人2個ずつぐらい食べてみようか。
親父さんと平野レミ似のオバサンが一生懸命皮を作ってている。Nさんが身振りで注文すると、ニコニコしながら、ちょっと待ってくれという仕草。緊急注文でも入ったのか。また、一回りしてから来ることにする。
10分ほど後行くと、まだ作業中のようだが、座って待て、という。
安っぽいテーブルに着く。ぼんやり作業を眺める。ちゃんと一人2個ずつって伝わっているんだろうか。Nさんが確かめに行くと、そんなこと言わず10個でしょ、ということになってしまった。まあいいや。40元だしな。
地元の人がしょっちゅう買いに来ては作り置きのパックを持って帰る。予約でもしているのだろう。人気がある店のようだ。
ようやく、僕らの分が出来た。平野レミが「オイシイヨ」とか愛嬌を振りまきながら並べてくれる。
高雄もそうだったが、割り箸も必ずビニル袋に入っていたり衛生関係はどの店もキチンとしている。その筋の通達でもあるのかも知れない。
大降りの小籠包を頬張ると、中からスープがジュワッとしみ出てきて、美味しいよ、レミさん。待った甲斐があった。
気分を良くして店の前で記念写真を撮ると、レミさんは恥ずかしそうに照れ笑いをしている。いい人だなあ。






いい気分でそぞろ歩く。
Nさんが僕の袖を引いて注意を喚起した屋台があったので見てみると、大阪焼きと書いてある。要するにお好み焼きの屋台だ。関西人としての血が騒ぐのかな。
だからさー、いくら粉にまみれて生きてきた関西人かも知れませんがー、ここまで来て食べることないでしょー、と説得。


次はかき氷でサッパリすることにしよう。
かき氷はここも煮豆やお餅、ゼリーなどのトッピングを指さして選ぶスタイルだ。高雄の経験が生きてスムーズに注文できた。
ここは屋台ではなく古い建物の中に席がある。見上げると提灯がぶら下がっていたりする。
はあ、シャクシャクしてモチモチして甘くて冷たくて、美味しいなあ。
かき氷の紙のカップに、意地悪そうなウサギのイラストが書いてある。
そいつでさえ、やたら楽しそうに踊っているよ。




食べ終えて、またそぞろ歩く。
時折吹く夜風を感じていると無条件に幸せだ。
今気づいたが、夜が更けるにつれて人がどんどん増えている。身体はぶつかるし、時々身動きできないほどの混雑ぶりだ。
一段高い台に上って店のセールスをがなり立てている店員やらもいて、すごい喧噪だ。
でも、皆ニコニコしてる。
ようやく駅の前の広い道路に出て、一息つく。


道沿いに煌々と明るいマッサージ屋があった。美容室のようなオシャレな感じで、店内は混雑している。
Nさんせっかくだから足裏マッサージやってみれば?
店内で確かめると、30分コースもあり、料金も400元とまあまあだし。
喜々として店の奥に手を引かれていくNさんを残し、僕はまだ未探索だった剣澤駅方面に行ってみる。


駅の向かい側に何やら大きな建物がある。そちらへも人の流れが向かっている。
ちょっと覗いてみよう。
その建物は美食街という屋内市場、というか食べ物屋の集合体だった。
中には体育館が何個分というほどの広さで、あらゆる種類の食べ物屋が並んでいる。100軒ぐらいはありそうだ。こっちでは焼き肉、スペアリブ、そっちでは麺類、点心、彼方に見えるは果物ジューススタンド、あれゲームコーナーもあるし、土産物屋だってあるよ。
圧倒されて冷たいウーロン茶を買っただけで戻る。
このウーロン茶、もちろん砂糖入りだった。面白かったのは、プラスチックのコップに中身を注ぎいだ後、透明ビニルをラミネートのようにしてその場で蓋にしていることだ。きっと熱でぴったりくっつける機械なのだろう。そこにストローをブスッと刺して飲む。あまり日本では見かけないけれど、こぼれないし、なかなか便利だ。


マッサージ屋に戻ると、満足そうな顔でNさんが店を出てくるところだった。
ものすごく気持ちいいから、一回やってみな。
ということで、明日僕も試してみることにした。
しかしまあ、なんですねー(小枝風)
なんと心が浮き立つ空間なんだろう、夜市って。
駅前に降り立った、日本人の女の子グループが
「わー、わー、何これー、楽しー」
と、泣きそうな声で叫んでいた。
僕らも無意識に興奮状態にあったのだろう。オジサン達は疲れた。
もう今日は限界だ。
ホテルに帰ろう。
MRTのホームから見下ろすと、深夜近いというのに、人通りはさらに密度を増し、屋台が放つ眩しい灯りの世界にどんどん吸い込まれていく。
ホテルに戻る。
そうだ、今日こそビンロウを試してみよう。
Nさんと、せーので同時に口に入れてみる。
Nさんすぐに口元をゆがめ「うえっ」とか言いながらトイレに駆け込む。ペッペッと何度もツバを吐く音と水を流す音。アジア各地で見てきて長年試してみたいと思ってたと言うワリには、根性無しだ。
僕の方は、最初噛んだときに、確かにかなり青臭いなと感じたが、それも慣れるとどうってことない。固い生野菜を味付け無しで噛んでいるようなモノだ。
戻って来たNさんに観察されながら、ちょっとガッカリ感含みでクチャクチャする。
と、突然来た。
ツバがわーっと湧いてきて、止まらないのだ。
口からあふれそうになって、トイレに駆け込む。
ビンロウごとツバを吐き出すと、またビックリした。
ツバが真っ赤なのだ。静脈血を吐いたような色をしている。
後から後から湧いてくるツバをペッペッと吐きながら、はっはーん、と納得する。
ミャンマーやタイなどでは、路上に血を吐いたような赤黒い後がどこにでもあった。
それはビンロウを噛んでる人が吐いたツバだとNさんが解説していた。
ビンロウを噛むのは構わないけれど、どこにでもツバはいて汚ねーなー、と思った。
でも、アレはやむを得ず吐いていたのね。こんなにツバが出るんだもの。
ようやくツバも収まり、痔の人が苦しんだ後のような便器に水を流して、よろよろと部屋に戻る。
1個試せば十分だな。
何だか、ボーっとしてきた。顔が赤いよと指摘される。まだ酒も飲んでいないのに。
やはり少し薬物的作用があるのだろう。すぐにワインを飲み出したから、実際の効果は分からない。
でもその夜僕はいつもより10%位(当社比)余計に饒舌だったかも知れない。
