8月28日(土)
お、今日は雨は降っていないぞ。
今日は台北に向かう日だ。朝、8時前に起きて、荷造りし、チェックアウトする。
道に出て振り仰ぐと超高層ビルの壁面には朝の光が反射している。
その足下では頭に桃を乗せたサルがお見送り。
どなたですかアナタは。

セブンイレブンで買い物した後、駅へタクシーで行く。120元。安いので、すっかり安易に使うようになってしまった。
駅で、朝マック。
メニューは日本と変わらない。ただしスマイル0円の記載はなかった。あれはやっぱり無意味に微笑する日本人市場向け戦略なんだろうか。
とはいえ店員の男の愛想は良かった。しかしこの兄ちゃん、ものすごく動作が遅いし要領が悪い。ほれ、コーヒー出来てるでしょ、ほれ、ポテトそっちにあるよ、ほれ何探してるのさ、と一々ツッコミたくなる。列車の出発時間も気になり、ちょっとイラッとしてしまった。
急いで、食べて、ホームへ出る。

やがて台湾の誇る自強号が滑り込んできた。見た目は普通の電車だ。しかし、Nさんによれば日本の新幹線、フランスのTGVと並ぶ世界の三大特急だそうだ。こういうのは言ったモン勝ちだな。誰が決めるというわけでもないし。
とりあえず「三大何とか」といえば、ほー、と言ってもらえるかも。例えばタイのトムヤムクンは世界の三大スープとの一つと言われるが、あとの二つは何なのか、どなたかご存じかな。




車内も普通の特急電車と何ら変わらない。
昨日買った切符の小さい方の謎が解けた。座席の背もたれに着いているホルダーに差し込んで、この席は予約済、と表示するためのものだった。


さあ、台北へGo!
車窓に次つぎと街並みや野山が飛び込んできて飽きない。
線路に平行して、来年高雄−台北間に開業する新幹線の工事が行われている。
台南駅だ。
先日、台北の空港出発ロビーで、Nさんが関空で知り合ったというオバサンが言っていた。
「台南は何もない所よ」
オバサンのご主人が仕事で台南に単身赴任しており、一度子供も連れてきたけれど、何もないので子供は二度と来ようとしないという。
なるほど、車窓から見える街並みは、ごく普通の地方都市のようだ。
確かに観光地としては何もないし、都会としても退屈なのかも知れない。
でも台南は台湾B級グルメの本家だし、普通の生活や街並みに興味がある僕のような人間にとっては、どんな街だって、何もない、とは切り捨てたくない。
嘉義駅。
ここは阿里山行き山岳鉄道の始点だ。
陽が差してきた。田舎の駅の静寂の懐かしさ。
遠くの山並みは雲に覆われている。阿里山はあの辺りか。
台風被害がなければ、あそこにいるはずだったんだなあ。
自強号は走る走る。
見え隠れする小さな町々の風情。どこも長閑な時間が流れていそうだ。
いつか訪ねてみたいと思う。


そのうち風景が硬く人工的になっていく。徐々にその密度が濃くなり、都会の顔つきに変わり始める。
台北だ。
列車はフイと地下に潜り、窓が黒くなる。
台北駅は地下ホームだった。
改札をくぐり地上に出ると、そこは大都会のまっただ中だ。
熱気なのか排気ガスなのか、白っぽい空気の中で、車と人々がせわしなく行き交っている。
高雄から出てきたオノボリさんの気分で、呆然とあたりを見回す僕ら。
台北の宿はシェラトンホテルだ。
Nさんは何故かアメリカンスタイルの高級ホテルチェーンにコンプレックスがあるらしく、リッツカールトンだのシェラトンだのヒルトンだの、それ系のブランドに弱い。
今の団塊世代あたりから上の人にも、強いアメリカコンプレックスを感じて驚くことがある。その子供達も、当然ファッションから音楽、映画まで影響受けまくりなのは言うまでもない。どこまでアメリカが好きなのさ、と時々辟易するほどだ。
ただ、文化的な好みであるうちは他人がとやかく言う問題ではないので、Nさんのアメリカンホテル好きも異論があるわけではない。というか、ヨーロッパ的なホテルをアジアで探してもしょうがない。合理的で利便性の高い高級ホテルが快適なのは、否定できない。
僕だってタイのペニンシュラホテルなどは、ここに一生住んでもいいな、と思った。無理だけど。
だから、Nさんにとって台北のシェラトンホテル滞在は今回の旅のハイライトと位置づけているらしく、とても楽しみにしているようだ。料金も一番高い。どこからか仕入れたのかシェラトンのVIP会員証を持っており、同じ値段でワンランク上の部屋に泊まれるらしい。
もちろん、僕にとってもそれは有り難いことであるが、Nさんには特別の期待があった、ということを記憶しておいてほしい。
さて、シェラトンは台北駅から歩いて10分ほどに位置する。タクシーに乗るまでもないので、昼下がりの広い歩道を、がらがら荷物を引っ張って歩いていく。
どれかな。あ、あのマークのだ・・・
それは、中層の古い建物で、高雄の高層ホテルとは比ぶべくもない姿だった。色もくすんだ海老茶色だ。
ちょっとガッカリ感が我々を襲う。
まあ、でも内容は伝統と格式があるんだろう、とロビーに入る。
流石に高級ホテルだけあってスタッフの対応はよく、NさんのVIPカードも効果を発揮して、いい部屋に泊まれるようだ。
愛想のいいベルボーイの後についてエレベータに乗り、古めかしい造りの最上階に降り立つ。VIP専用のフロアのようだ。
部屋は落ち着いた調度で広々としている。一見して満足できる水準だ。Nさんもニコニコしている。台湾では不要らしいが、チップを100元握らせる。ひとまず良かった良かった。
と、Nさんが何か叫んだ。
どうしたNさん。
彼が指さす先を見ると、ベッドがある。
あ、ダブルベッドだ。
幾ら親しき仲とは言え、ダブルベッドで仲良く眠るのだけは勘弁して欲しい。これは僕もNさんも共通の願いだ。寝返りを打ってNさんの顔が目の前にあったら、あまり良い気持ちではない。
予約時にはツインルーム、2ベッドと確かに確認したという。
早速ベルボーイに言って、部屋を代えてもらうことにした。


彼がフロントに伝えに行っている間、しげしげと部屋を見回すと、決して新しくないが、ユーティリティーも広々としており、重厚な机にはインターネットの無料LANコネクタも備えてある。豪華なウェルカムフルーツをソファに座って眺めながら、しばらく待つ。
そこに、電話のベル。フロントからだった。
今ホテルを改装中なので、同じクラスのツインルームは用意できないという。だから、この部屋にエクストラベッドを入れるか、それともグレードダウンすればツインルームにできるが、どうするか。
Nさんと相談する。エクストラベッドに寝るのは一晩でもゴメンだ。ランクは落ちてもツインにしてもらおう、と決定した。
ベルボーイの後に付いて、エレベータを下り廊下を歩かされ、たどり着いたのは、今度はベッドがちゃんと二つあるツインルームだった。
しかしグレードはかなりダウンしており、部屋もユーティリティも狭い。しかし最初からここに案内されていれば納得したぐらいのレベルであり、マアマア許せる範囲内だ。勘弁してやろう。やむを得まい。
でも、Nさんは相当にガッカリしている。ウェルカムフルーツも安いものだと嘆く。ホテルへの思い入れが強く、今回のハイライトと大いに楽しみにしていた分、気持ちがどーんと沈んでしまったみたいだ。
そこまで落ち込むなら、ダブルベッドでも気にしないで我慢してあげたのに。


愚痴ってもしょうがないよ。折角の旅行だし、市内観光に行こうよ。
もう午後も遅いので、MRT(都市鉄道)で行ける龍山寺へ行ってみることにした。
ホテルの目の前にMRTの駅がある。
旅行者にとってはバスより余程利用しやすい。券売機も分かりやすく、目的の駅まで20元と安い。ここのMRTはジーメンス製だ。バンコクと同じ。
龍山寺駅を降りると、ホテル界隈とは違って、古い雑然とした街並みだ。大勢の人が行き来している。
その街並みに埋まるように、古いお寺が佇んでいる。龍山寺だ。期待どおりの極彩色。1738年に建立された台北で一番古い寺という。
境内では、靄がかかっているのかと思ったぐらい、線香の煙と臭いが充満している。その中で、皆熱心にお参りしている。仕事帰りの若い人たちから用もなさそうな年寄り連中、僧侶達。特別な行事をやってるわけでもなさそうで、完全に普段の生活に溶け込んでいる様子だ。
建物や門柱を鑑賞し、異国情緒を味わう。歴史や見所など観光的詳細については他のサイトに喜んで譲る。






お寺を出て、駅に戻る途中、市場のような建物を見つけた、
細長いバラック小屋のような建物が歩道の脇に続いている。入口をくぐると、狭い通路の片サイドに延々と店が連なっている。カウンター付きの麺料理店あり、乾物などを売っている商店あり、占い屋あり。暇そうな占い師のオバサンがこっちをジロッと睨む。商売にならないと判断されたのか、プイとそっぽを向かれた。。




コーヒーショップで一休みし、一旦ホテルに帰る。
すっかりMRTに慣れた。旅行者にも分かりやすく便利だ。ただ、タクシーも安いので、場所によって使い分けた方がいいらしい。
部屋を見て、またNさんがため息をつくので、すぐ夕食に出ることにした。
ガイドブックに出ていた飲茶の有名店で食べることにした。
MRTで南京東路駅へ。その店はホテルの中にあり、覗くとすごい混雑ぶりだ。
ちょっと二の足を踏んで、別の店を探すことにする。
このあたりは、結構若者っぽいオシャレな店が多そうだ。
そんな中に、トンカツ屋の看板を見つける。かつ田というトンカツ屋。
日本メシ好きのNさんを励ます意味でここに決定。雑居ビルの階段を上がる。
店内はこぢんまりとした洋食屋のような造りで、ほぼ満席だ。見回すと僕ら以外は皆地元の人のようだ。人気があるんだな。
僕はロースカツ、Nさんはヒレカツセットにする。カツに、ご飯、みそ汁、飲み物、デザートが付く。飲み物とデザートはチョイス可能で、僕はアイスコーヒーとお汁粉、Nさんはオレンジジュースとイチゴアイスという微妙な組み合わせにした。
味はどうと言うこともないが、とにかく安かった。


満足してMRTで帰る。この路線はゴムタイヤの新交通だ。ホームドアもあるし、アメリカばりに婦女の夜間セーフティーエリアもある。
コンビニでワインを買って部屋に戻る。
しばしTV鑑賞。ケーブルテレビのようで、軽く100チャンネル以上やっている。
占い関係や、投資アドバイスなどの番組が多い。両者を結びつけた占いによる投資アドバイザーが絶叫していたりする。「雨の御堂筋」の歐陽菲菲がトーク番組に出ていた。元気に活躍しているようだ。懐かしいな。
Nさんは早々とシングルベッドに潜り込んでしまった。
僕はワインを飲みながら、ネット接続を試みる。
この部屋にはLANは引かれておらず、電話回線のみだ。
なかなか上手く繋がらない。
だんだんキーを打つよりグラスを傾ける方がメインになってくる。
自宅のキーボードには、こんな状態で今まで何杯のワインを飲ませたことだろう。
すっかりアリガタイ気分になって、ネットを諦めた台湾の夜。
