最近までカメラには全く興味がなかった。
子供の頃,親がたくさん写真を撮ってくれたのは今から思えばありがたいことだ。たしか2眼レフカメラやペンタックスのハーフサイズカメラなど何機種かあり,焼き付け用の装置,暗室用の緑色の電球,酸っぱい薬品の匂い,ゼンマイとマグネシウムを利用した古いフラッシュなど,今思い出しても写真にまつわる記憶はつきない。
それだけ写真に興味を持ってもおかしくない環境にありながら,全く関心が向かなかったのは,今から思うと不思議だ。
それよりも音楽の方に強烈な吸引力を感じたためかも知れない。絵画には強い興味があったから,ビジュアル的感性が欠けていたわけではなかったろうけれど。
学生の頃新聞社でバイトしていて,カメラマンのスクープ話を聞いたりしても,違う世界の人がいるんだなあとしか思わなかった。
その後何度か海外旅行に行ったときには,さすがにインスタントカメラを購入してパチパチやったが,それさえ煩わしく,自分の目に焼き付けた方がいいなどと言ってカメラなしで出かけたことさえある。
パソコンサイドからの興味で,初期のデジタルカメラ(カシオのQV10S)を購入したけれど,そもそも写真的好奇心がないので,記録代わりのスナップ撮影に1年ぐらいは使ったあと,そのまま埃をかぶってしまった。
そんな僕が去年(1999年)機会があってベトナム旅行に行くこととなった。
当時カメラを持っていなかったので,デジカメでも買おうかという気になった。新宿西口のヨドバシカメラで実況検分すると,デジカメはちょうど150万画素から200万画素への移行期であり,しかも安いものでも4万円弱ぐらいはする。機能的にはちょっと”待ち”の感じだし,値段も高い。
方針を変更し,安いコンパクトカメラを買うこととする。
フジの型落ちAPSカメラがちょうど安売りしていて,1万円台で購入できそうだ。店員に相談してみると,新機種で高機能なものを格安で売って上げるとの甘言をささやかれ,結局フジのエピオンシューターというAPS3倍ズームの機種を2万5千円ぐらいで購入した。これでも僕が今まで買った中では最高級だ。
これを持ってベトナムへ行き40枚撮りフィルム5本だから200枚近く撮ってきた。
帰国後現像したのを見ると,あまりにも印象が違う。ベトナムの強烈な空気が伝わらないなと不満が残った。(ベトナム旅行記参照)
その後も何かの行事などがあるたびに撮ってみたけれど,まあこんなもんか,といつものように関心が薄れていった。
そんなおり,勤め先でグループ研修のようなものに昨年夏頃から参加することになった。間もなく,このグループのメンバーのひとりが写真を趣味にしていると知った。彼女は撮影会に参加したりグループ展に出品するなどかなり本格的にやっているらしい。写真を見せてもらったり話を聞いているうちに,ちょっと面白そうだなあと思った。
それで,11月に大阪と広島に出張に行った際,例のカメラを持っていき,いい写真を撮ろうと構図や光を工夫した。
帰って現像に出しプリントを見て,がっかりした。これじゃ今までと同じありきたりのスナップ写真じゃん。ちょっと写真をナメてたかな。
僕の内側で俄然写真に関心が向いた瞬間である。
幸田文さん言うところの心の種が芽を吹いた。(書評参照)
ここで自分の腕のせいにしないというのが,僕のお気楽なところである。
これはカメラが悪いに違いない。現像の翌日,速攻でヨドバシカメラ札幌店に走った。
ずらりと並ぶコンパクトカメラでリコーのGR1sというのが良さそうだ。パンフレットの作例を見ると,空気感がいいし,ガラスレンズの描写力が素晴らしそうだ。ボディーも驚くほど薄いし,金属製で手触りや重さもいい感じだ。絞り優先モードなど半マニュアルの操作も可能で,写真の研究にもいいようだ。ただ,いかんせん高すぎる。8万円もする。
そこで同じレンズを使ったプログラムモードオンリーのGR10をみてみる。ボディーはプラスチック製でちょっと厚くなるが,レンズが一緒なので魅力がある。これでも4万円以上する。が無理すれば手が届きそうだ。
店員に相談すると,それならこれと大差ないですよと同じリコーのR1sというのを薦められた。
これはプラスチックレンズで,焦点距離もGR1s,GR10が28mm f2.8なのに対し30mm f3.5。ワイドパノラマという24mmのパノラマ機能も付いている。
何と言っても2万円という価格が魅力だ。
こっちを薦めるというのは良心的な店員なのか,高いのは猫に小判と見くびられたか。
迷ったあげくこれに決めた。APSカメラは下取りに出した。新機種が登場したばかりらしく5千円にしかならなかった。
このカメラで生まれて初めて相当意識的に写真を撮ってみた。ポケットにも入る薄さなのでどこにでも持っていける。
驚いたのは描写力の素晴らしさと,色彩の美しさだ。普通のインスタントカメラとこんなに違うものかと思った。
いままで縁の無かった写真雑誌やインターネットの写真関連WEBなどを見ると,たくさんの人たちが趣味として,プロとして写真をやっていることにびっくりする。奥が深い世界なんだなあ。フィルム一つとってもメーカーや種類によって様々な絵が出来ることも初めて知った。
何を撮るかという大テーマにもぶつかったが,これは保留にしてスキルの向上に努めることにした。
基本的にはコンパクトカメラで街の風景を切り取るのが自分に合っているような気がした。
しばらく撮るうち,やはりプログラムモード一発に物足りなさを感じるようになった。写真雑誌を見ていると露出がどうのボケがどうのと解説記事が目に付くが,僕のカメラとは縁がない。
やはりGR1sにしとけばよかったかなあ。とか,コンタックスのヘキサーRFは良さそうだなあ。最後はやっぱライカに行き着くのかなあ,との思いが強くなってきた。
でもどれも高すぎる。ライカなど基本セットで40万円もする。とうてい無理だ。
と思いながら,ある日ヨドバシでつらつらカメラコーナーを物色していて,突然頭の中に啓示が降りてきた。
(一眼レフはどうかね。)
そっか。一眼レフの方がかえって安いじゃないか。
色々見てみると最近の入門用カメラは安くて高機能で軽い。
一眼レフは気軽に持ち歩けないし,撮影も撮るぞーという感じで趣味に合わないけれど,写真の基礎を勉強することも大事だよなあ。
気持ちが大きく傾いた。
検討の結果キャノンのEOS Kiss 3 を買うことにした。何よりも軽いところが気に入った。セット販売しているレンズはタムロンの38mm-200mmとキャノン純正の24mm-85mmのズームがあり,最後まで迷った末,広角側を取ってキャノンにした。あわせて7万7千円,これでもGR1sより安い。が,カードなのでまだ払っていない。
今まで使っていたR1sはサブカメラにしようと思っていたが,たまたまその機種を欲しがっていた友人に声をかけたところ,1万円で買ってくれた。
一眼レフに変えて何本か撮った印象は,
・レンズの描写がはっきりしすぎている。色味がなかなか出てこない。
逆に言えばリコーのR1sのレンズの色彩とボケ味が特徴あるものだったといえる。
これは,フィルムとか撮影技術で自分の思う表現を獲得していけ,という課題を与えられたのだろう。
・手ぶれも多くなった。一眼レフなんて触ったこともなかったからね。構え方がまだぎこちない。
・案の定コンパクトカメラと違い,街なかや店の中で撮影するのには躊躇してしまう。
・露出なども色々工夫してみるが,現像する頃にはデータを忘れてしまう。皆さんはどうしているのでしょう。写すたびにメモとかしてるんでしょうか。

鞄に入れて毎日根性で持ち歩いているうち,ちょっと辛くなってきた。本体がいくら軽いといっても,スームレンズが本体と同じぐらいの重さなのだ。そこで,50mmの標準レンズを購入した。図体が小さく軽いこと,単焦点だけあってf1.8と明るいこと,何と言っても安いこと,八千円ぐらいだ。
夜飲みに行ったときに結構撮影していたが,ノンフラッシュでは手ブレだらけだったので,期待できる。重さもコンパクトカメラ並になった。
写真雑誌を見ていると,銀塩写真がデジカメに猛追されつつあるのが感じられる。コマーシャルな世界ではいずれデジカメに置き換わるのかも知れない。
そんな時代に銀塩写真の世界に入っていこうとするのも我ながら何だかおかしなもんだ。
ただ,思うのは,銀塩の画素数がデジカメより当分勝っているだろうということは置いておいても,なにか手作りの味わい,思うようにいかなかったり,偶然いいのが撮れたり,何というか,作品を作る課程そのものに想像力をより刺激される気がする。まだぼんやりとしているが,デジカメとは違う何か,を直感が支持している。
それが何かを,これから写真の世界に分け入って探そうと思う。気楽にね。