過日某所で宴会がありました。
顔も見飽きた友達数人と通いなれた居酒屋で、おめでとーとか言いながら、だらだらと酒を飲んでいたのです。その日は涙も凍り付くという上川盆地から、仲間である女性が、珍しく駆けつけるはずということでした。
開宴しばらくの後、引き戸ががらがらと開いて、「お久しぶりー」と声から先に彼女は入って来ましたね。
見ると両手にビニル袋を抱えています。それを元教師の居酒屋主人に手渡し、何やらゴチョゴチョ話しています。
席に着いて乾杯をし直し、下らない話しを再開して数刻たった頃、「お待たせ!」の掛け声とともに主人が料理を持ってきました。
皿の上に何やら得体の知れない物体が乗っています。何かの揚げ物のようです。幅1,2センチ、長さ数センチの不定形状で、箸を向けるのが躊躇われます。「とにかく食べてみて」と彼女がいうので、各々恐る恐る口にしてみました。
歯ごたえはまったく無く、木綿豆腐をかじっているぐらいです。味は肉のようなホルモンのような、捉えどころの無い感じで、僕の嫌いなタチのような風味も感じられます。何より独特の臭いが強い。決しておいしいとはいえないけれど、人によっては珍重するかもしれない、そんな印象でした。
「何さ、これー。」との一同の詰問に答えて言うことには
「膵臓」
「え!何の?」
「豚。食べたことないでしょー。」
といわれてみれば、確かにハツガツレバをはじめほとんどの内臓は口にするけれど、膵臓はないですよね。
訳を聞くと、膵臓というのはその持ち主が死んだときから直ちに自己消化を始めてしまい、ドロドロに融けてしまうので、一般に流通させることが出来ないのだそうです。
膵臓とは何か。平凡社の百科事典マイペディアで引くと、
『肝臓に次ぐ大形の消化腺。長さ約15センチの細長い器官で,胃のうしろを横走し,左端は細く,脾臓近くまで達して膵尾といい,右端は膵頭と呼ばれて太く,十二指腸の凹湾部に入る。トリプシン,アミラーゼ,ステアプシンなどの消化酵素を含む膵液を分泌し,その排出管である膵管は十二指腸に開く。なお腺の内部には,ランゲルハンス島という内分泌を行なう細胞塊が散在し,インシュリンを出して血糖量の調節にあずかる。』
とあります。勉強になったでしょう。
しからばなぜ彼女はそんなものを入手できたのかというと、某保健機関の獣医だからです。食肉の検査過程でアウトプットされたものをすぐに持ってきたということです。
別のメンバーの一人は食べたことがあると言いました。彼は某研究所の職員であり、仕事の関係で上司からトジョー鍋として食わされたそうです。トジョー鍋って?「屠殺場の屠場さ。」なーるほどね。まあ一般人はめったに食べられないよね。
それにしても居酒屋全体にガスのように独特の臭いが充満しています。なぜみんな気がつかないのだろう。、既に自己消化が進行し始めていてこんな匂いがするといいます。生の膵臓を5キロも持ってきたらしいけれど、きっと居酒屋主人はあとで捨てるんだろうな。
この彼女は以前にも獣医の勉強で発生した出所不明の堅い肉や血の腸詰めなどを持ってきてみんなに食わした前科があり、しばらく音沙汰無かったと思ったら今度は膵臓だから、油断できない。