窓を開けるとやはり小雨が降っている。
じゃあ今日はバイクを置いて市内観光と行くか。
受付でサチヨさんに鍵を預け,歩いて観光することを話す。観光地図をくれて、駅前から出てる一日500円乗り放題の循環バスがいいよ,と教えてくれた。
なんだ,根は親切な人じゃん。金沢訛りってきつく聞こえるのかも知れない。
早速駅に行き、観光案内所でそのバスの乗り場を教えてもらい,一日券500円を買う。
レトロ調の小型バスが観光地をぐるっと循環し,どこで乗り降りしてもいいので,便利だ。
小雨の中やってきたチョコレート色のレトロバスに乗りこみ、まず茶屋街で降りる。


ひがし茶屋街は江戸時代からの料亭街だ。少し本降りになった雨の中に情緒ある古い家屋が静かに並んでいる。
観光客もポツポツと歩いている。やはりOL,おばさんグループかリタイア老夫婦が多い。金沢観光のイメージ通りだ。
そんな中,黒ずくめのキャリアウーマン風女性がタクシーの運ちゃんを引き連れて颯爽と現れた。てきぱきと観光情報を聞きながら,早足に見回っている。出張途中なんだろうか,まわりのムードからかなり浮いている。ちょっと肩の力を抜いてごらん,と心の中で突っ込みを入れる。
江戸時代当時のまま残っている一軒が一般に有料解放されている。入ってみた。
しっとりとした部屋の佇まいが美しい。客を上げる二階は,中庭を臨む欄干の間から風が流れ,雨音が微かに聞こえ,素晴らしい風情だ。
こんなところで遊んでみたい。芸者さんの膝枕で都々逸でも聞きながら。なんて一生無理だな。
別室で抹茶のサービスがあると言うが,新しい部屋だし,千円以上もするので止めた。





















歩いてすぐ近くの川沿いにある主計町茶屋街も見てみた。
こちらは現役の料亭街のようだ。関係者らしき着物のおばさんが店先で立ち話をしているのもいいい風情だ。一見さんは入れてくれないんだろうな。



次は,金沢といえばやはり兼六園。レトロバスで行ってみる。
さすがに,観光客が大勢いる。あちこちでて,団体さんを引き連れたバスガイドさんが説明しているので,ちゃっかりそれを聞いて,歴史,由来などを教えてもらう。
確かにすばらしい庭園だ。小雨で緑が映えて美しい。
これで日本3大庭園コンプリート。僕の中のランクでは後楽園、兼六園、偕楽園の順かな。









有名な灯籠がある池に突き出した茶室がある。その岸辺の建物でお抹茶と和菓子をいただく。庭園内にはいくつか抹茶を飲めるところがあるが,値段が微妙に違う。場所や値段を足でリサーチし,その結果ここを選んだんだ。暇だね。
和菓子は落雁。甘い口の中がお抹茶で柔らかくなる。やがて心地よい苦みとお茶自体の甘さが浮き上がる。池を渡ってくる風。気持ちを洗われる。
隣の席のOL組とシャッターの押し合いをする。久々にアンノン族という言葉を思い出す。



兼六園を十分満喫した後,向かいの石川門をくぐり,金沢城址公園も見てみる。
ここにはつい最近まで金沢大学があったという。
昔,大学は一期校,二期校と分けられており,受験日も違っていた。確かぼくは二期校に金沢大学を選んだような気がする。いや考えただけだったかな。結局二期校は受験しなかったので,記憶は定かではないが。そんなことを突然思い出した。
もしかしたら,この城跡のキャンパスで学生時代を過ごしたかも知れないんだなあ,と思うと,なおさら感慨を持って見渡された。


去年完成したという「菱櫓・五十間長屋・橋爪門続櫓」に入ってみる。両端に櫓を備えた細長い建物だ。建築当時の技術によって復元したものらしい。
何か見るものがあるわけではなく,ただがらんとした内部だ。床や柱の木組みが真新しく,お城が新築されたときってこんな感じなんだなあ,ということが分かったのは,それなりの収穫だった。でもこれで有料にするのは如何なものか。




公園の一角に大人数を収容できそうな休憩所があり,一休みする。
そこの展示パネルでようやく気が付いた。金沢といえば加賀百万石。「利家とまつ」というNHK大河ドラマの舞台になったところだった。きっと放映当時は観光バブルに沸いたんだろうな。
城内の山道を城壁跡を眺めながら一巡りし,後にする。




レトロバスに乗って,次は香林坊の武家屋敷街へ。
場所が分からなくてうろうろしていると,昔っぽい商家があり,記念館になっているのを見つけた。入場無料という文字に惹かれ入ってみる。
ここは天正7年開業の薬舗「中屋」を移築した記念館だという。1階は当時の店先を再現しており,2階には金沢の伝統産業,町民文化に関する資料が展示されていた。
店の構造を見て,この時代の商売って対面販売が当たり前なんだよなあ,って今更ながら気がついた。一昔前まで当たり前のこととして連綿と続いていたその商売方法が,スーパーマーケットの登場で大きく舵が切られることとなったのだろうか。商売形態史みたいなものがあったら見てみたい。








長町武家屋敷街は,茶屋街とは対照的に,高い塀と立派な門構えが続く。表札が掛かっているので今も誰かの生活が営まれているらしい。うらやましい。




その中で野村邸というところが,一般に公開されている。入ってみる。
各地で見た武家屋敷と基本的には同じ感じだ。ただ,二階に茶室があるのが特徴で,当時の文化の高さを示している。
この茶室でも抹茶を供している。是非飲みたかったが,狭い茶室の中にオジサン方の団体が十人ぐらいで車座になり,おしゃべりしている。仕方なく十分ぐらい他の部屋を見学して待つと,ようやくぞろぞろ消えたので,お茶を頼む。
他の客は来ず,ぼく一人だ。
茶室の窓からは,雨に打たれる瓦屋根の下,緑の葉が濡れて光る中庭が見下ろせる。古びた灯籠が黙り込んでいる。簾越しの隣室で和服の女性がお茶を点てる,その音が静けさをいっそう引き立てる。
「今日は雨でまた風情があって・・」
と畳に置かれた和菓子の白い包装紙と,抹茶の深い緑。
ああおいしい。と心が静まる。
窓に目をやるとしっとりとした風が遠慮がちに吹いてくる。
キレイな気持ちになる。







日本で最初という用水路に沿って続くオシャレな商店街をしばらく歩き,喫茶店で一休み。
その後 前田利家とまつを祀る尾山神社にも行ってみる。特徴のある神門をくぐる。明治8年に建設されたもので国の重要文化財に指定されているとか。上部にステンドグラスがはめこまれている奇妙な建物だ。





しばらく町並みを楽しみながら歩き,近江市場というアーケード街ものぞいてみる。藩政時代に始まって以来250年もの間、金沢の食文化を支え続けてきたという。
そこの前からまたレトロバスにのって金沢駅に戻った。もう夕方だ。観光終わり。



明日は金沢を離れフェリーに乗るので,お土産を物色することにした。
駅舎と一体になったショッピング街の一翼はお土産店専門になっている。
輪島塗の製品,やはり安いのはお座なりなプラスチック製で、いいものは何万もする。
九谷焼にしても加賀友禅にしても,その辺の状況は同じ。買い付けに来た商人じゃないし,ファンシーグッズをあさる修学旅行生でもない,四,五千円ぐらいなら払ってもいいけれど本物がほしい,という購買層向きのものが殆どなかった。
間違いなく本物の材料,技術,でも色々工夫してお土産用に安い製品を開発しました,というテイストのものがあればいいのになあ。
この辺は他の観光地だって同じだから,いやいや北海道なんかの方がもっとヒドイし,石川県を責めるわけではないけれど,何だかなー。
結局,無難なお箸にした。その辺のスーパーでも売っていそうだけれど。職場へのお土産の菓子なども買う。
ついでに夕食も仕入れる。


歩き疲れて旅館に戻る。風呂上がりにゆっくりとワインを飲む。
今回のツーリングもいよいよ終わりかあ。なーんか寂しいなあ。
TVで天気予報をやっている。どうやら台風が近づいているようだ。