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朝,荷造りしてホテルを出発。連泊していれば荷物を置いて身軽に行けたけれど,やむを得ない。というか今までと同じだから構わない。

今日は能登半島一巡りの旅だ。先端の方に輪島市があるから,そこで漆製品でもお土産に買おうか,というコンセプト。ツーリング内ツーリング。

まず、地図を睨むと、金沢郊外の内灘海岸では砂浜でバイクも走れると書いてある。へー。
ピカピカに晴れた朝の街並みを快調に飛ばし,そこへ行ってみる。海岸近くまで降りてみると,確かにグラウンドのように広い砂浜があり,車が何台か走っている。しかし,バイクを降りて浜まで出てみると,けっこう砂が柔らかそうだ。怖い。もう転けたくないので、走り回るのは止めておく。



そこでフト思い出した。だいぶ以前,地元のローカル番組「水曜どうでしょう」で,裏日本のどこかの海岸を車で走っていたっけな。砂が締まっているため,車が走られ,県道の指定も受けている,そんな画面だった。
あれはひょっとしてここらの海岸?きっとそうに違いない。
でも地図を見ても能登半島の西岸沿いにはズーッと県道が走っており,どこがその場所か判然としない。

途中何度か海岸方向への道を下ってみた。そのたびに,道に迷ったり,柔らかい砂にタイヤを取られそうになったりした。どうもそれらしき道は見つからない。時間も随分取られた。仕方がない今回は諦めよう。

すっきりして,ふんふん鼻歌を歌いながら走っていると,渚ドライブウェイという表示が見えた。あれ,ひょっとして。
表示に従って海岸へ行ってみると,確かに砂浜が道路になっている。ここだここだ。風景にも見覚えがあるぞ。

砂は細かくて締まっていて,普通の自動車なら確実にグリップ出来そうだ。数q先まで見渡せる真っ直ぐな海岸のそこここに車や,海産物の屋台が散見される。
そして青空と水平線,波の音,塩辛い空気,遙かな船影。

ぼくもバイクを走らせる。締まっているとは言ってもバイクでは時々ハンドルを取られそうになり,怖い。けれど、波打ち際を飛ばす感覚は不思議で,爽快だ。砂浜の緩い凹凸が気持ちいい。思わず自分の格好良さに酔ってしまう。ふふふ。



そのうち,終点と書いた浜からの出口が目に入ったが,少し通り過ぎてしまった。バイクを止めて,慎重にUターンする。
その途中,足下が急に柔らかくなった。ハンドルを取られ,アクセルを吹かしてしまい,後輪が滑り・・・。
転倒!!
くそー。
もう自棄になってバカヂカラを出し荷物を積んだまま引き起こす。
点検したところ,柔らかい砂だったから,無傷だ。一応は良かった。でも気持ちはかなーり凹んだ。
浜からの出口も砂だらけで,なかなか上がれない。細かい砂は締まってないと逆に最悪だ。
ここの道はバイク、しかもオンロードタイプ、さらに新車、では止めた方がいいかも知れない。

凹んだままイヤに晴れた空の下を走っていると,「世界一のベンチ」という看板がやたら目につくエリアに入った。
何もないところだけれど,何とか町おこしのネタを,という必死の思いが伝わってくる。
でも何だかなー。ぼくの目から見たら,そんなことしなくても十分に美しいのに。この風土だけで,こんなに感動してるのに。

でも一応座ってみっか,と探しても看板が不親切でよく分からない。
諦めて,とぎ海街道という道の駅に止まり,休憩する。すると,運良くそこからすぐ裏手の海岸に件のベンチがあることが判明した。ほー,岸壁の母もここの関係者なのか。
問題のベンチは460mの長さとか。だからどうよ。とツッコミながら,誰もいないベンチに座り,右を見て左を見て,憮然として立ち去る。
遠くの岬が午前の薄日を浴びて穏やかな顔をしてる。



しばらく走っていると,曹洞宗大本山総持寺という案内看板が見えた。
このあたりはお寺が多いけれど,いちいち見るのも面倒だ,今回の旅のコンセプトとちゃうし,と通過を繰り返してきた。
でもうちも曹洞宗だし,大本山とは侮れない。しかもここらは門前町というらしい。てことは,それほど大きな格式高いお寺なのだろう。寄ってみようか。
参道は花一杯に整備されており,結構大勢の信者らしき団体さんが歩いている。ぼくもバイクを駐車場に停め,家族を置いてこんな気ままに旅をしているやましさでも懺悔すっか,と門前まで歩く。
ところが,ここは拝観料を取るのね。400円。じっと考え込んだ末,きびすを返した。
日差しがヤケにまぶしくて,目を伏せる。



海岸沿いの道路を順調にとばし、太陽が天頂に輝く頃,輪島に着いた。
駅もないし,中心街らしきものも見あたらない。町の構造がどうもよく分からない。
うろうろしていると,カワハギの干物を売るらしいリヤカーのばあさんが信号待ちで並び,ぼくのナンバーを見て
「札幌から来なすったのか、ほえー」
と声をかけてきた。すごい驚き方だ。
あわよくばと思い,最高に愛想良く受け答えしたが,干物はくれなかった。

川沿いに市役所があったので,観光情報でもないかと行ってみる。受付のオネイサンに聞くと,感じよく応対してくれて、市内の地図もくれた。

その地図に従って,工芸館や、専門店などに入って見る。観光客は殆どいなくて,店員もあまりいない、真昼の強い日射しの中でゴーストタウンにいるような錯覚を覚えた。町全体がしーんとしている。路地裏で箸の木が無造作に干されている。雑貨屋で,おばあさんがポツネンと店番をしている。



漆製品の本物は高すぎる。ああ,この肌合いのなんという柔らかさ,官能的な色彩,と感じるものは最低でも数万円,お土産的なものでも数千円以上する。
せいぜい箸とかプラスチック製品がお手頃。でもそれなら別に普通のおみやげ屋の方が品数がありそうだし。

近くの道の駅に行ってみる。まだ出来たばかりで、建物は立派だが、地元採用らしき店員の対応はぎこちない。お土産品も殆どない。



その近くのスーパーで買い物し,ます寿司のおにぎりなどで昼食。

輪島の最後に工芸作品館というところに行ってみる。市営で無料,漆職人の技も見学できると観光パンフに書いてあった。おみやげもそこで買おう。
住宅街の判りづらい道を辿りようやく探し当てた。
と思ったら、もうつぶれていた。看板が壊れて廃墟になっている。
静けさの中で,ピアノを練習する音がどこからか聞こえてくる。
ため息が出た。優雅な昼下がり。死んだ町。

お土産なら金沢駅にも売っているだろう。止めた止めた。
輪島をあとにし,能登半島の先端を目指す。

途中千枚田の道の駅で一休み。
海を臨む斜面を覆い尽くすミニ田んぼに午後の光が反射して,日本的美しさとはこういうものかと感激する。
20代ぐらいの若者ライダーに声をかけられる。宮城ナンバーのCB400SF。半島を逆回りで来たという。札幌からの道程を話すと呆れられる。しばらく情報交換し,どこかでまた会うかもね,と別れる。



この辺は塩の産地でもあるらしい。塩田で働く人たちを横目で見ながら,いくつも集落を通り過ぎ、先端の岬に着く。特に何があるわけでもない。じゃ帰ろう。

一応頭の中に線を引いた帰り道のはずが,途中で判らなくなった。地図を見ても似たような地名があって全然分からない。手がかりを求めて随分走り,ようやく自分の位置が分かる。かなり逆走したみたいだ。やはり,ぼんやり走ってるとダメだねえ。



だいぶ時間をロスしたこともあり,高速道路で帰ることにした。
夕暮れの中,高速の入口に向かう。そのアプローチ道路はほとんど自動車専用道路で高速と変わらない。
しばらく飛ばすとようやく入り口に着いた。予約した旅館に,遅れる旨電話する。気の強そうなばあさんの声。

高速道路は初体験。ここは殆ど片側1車線で,後ろから自動車にあおられるので怖い。
次第に暗くなり、闇に覆われる。街路灯も少なく,ヘッドライトも暗い。カーブの先が読めなくて本当にビビル。
バイクの鬼門である料金所を何度か無難にこなす。
なぜ鬼門かというと,バイクの場合,料金所で止まり,ギアをニュートラルに入れ,手袋を脱ぎ,財布を出し,料金を払い,チケットとお釣りを受け取り,財布をしまい,手袋をはめ,ローに入れ,発進。
これを,よどみなくスムーズにやったとしても,自動車よりだいぶ時間がかかる。後続車にクラクションを鳴らされたりするのだ。このため,タンクバッグには小物入れ兼財布が装着されていたりする。

金沢に近づいてくると、4車線となり,街路灯も明るくなってきた。周りの車の流れに合わせると,とんでもないスピードになった。風圧で首がもげそうだ。
金沢市街には結局夜7時頃に着いた。

予約した旅館を探してうろうろするが,暗くて分からない。駅のそばの街路灯の下でバイクを止め,地図を見る。今いる場所が駅のどちら側かさえ分からなくなったんだ。
そこに散歩の途中らしきじいさんが寄ってきた。
「札幌から来なすったんか、ほー」
と声をかけられる。
少し話をして,ついでに駅前通りの位置を教えてもらう。ここと反対側だ。
旅館は駅前通りを少し進み,一本奥まった所にある。これでだいたいの位置は分かったので,お礼を言って,そちらへ向かう。

しかし旅館のあたりは小路が複雑に入り組んで一方通行も多く,やはり全然分からない。困った。また,バイクを流しながら20分ほどふらふらしたろうか。
「駅前通はそっちじゃないよ」
とダミ声をかけられる。
え,と振り向くと,先ほどのじいさんが暇そうに立っているではないか。なんという偶然だ。この近所の住人だったらしい。

実は旅館を探していて,と白状すると,
「この辺の旅館はみんな知ってるから言ってみな」
「○○旅館です」
「知らないな(!?)。電話番号は?」
「これです」
「ちょっとかけてみな,代わるから」
言われるままに電話させられ,じいさんに代わると,だみ声で場所を確認している。訛りでよく分からないが,電話口のばあさんと激しくやり取りをしているようだ。旅館側だって急に地元じいさんが出てきて横柄に場所を聞くもんだから驚いたろう。
結局,ここのすぐ近くであることが判明し,じいさんに厚くお礼を言って旅館へ向かう。

おそるおそる受付窓口に行くと,野村監督の奥さん,サチヨさんだっけ,あんな感じのばあさんが出てきた。ニコリともしない。
「場所が分からなくて。親切に教えてくれる人がいて・・」
ってなんでオレが言い訳しなくちゃ行けないんだ。
バイクで来たことを告げると,自ら駐車場に案内し,隅に置かせてくれる。
そのばあさん,
「こないだも年配の夫婦連れがバイクで来てだけど,寒いし危ないし・・。これ何cc?」
「はあ,250です」
「わたしゃナナハンも乗れるのよ」
「え?はあ・・(昔の免許のことか)」
とことん気が強そうだ。

部屋は洋室で,ベッドとソファー,TVがあるだけのシンプルなもの。トイレや風呂は共同だ。



高校生の集団が食堂で食べている。何かの合宿か。あとは労務者風が数人。
一風呂浴びてワインを飲む。さすがに疲れて眠い。
目をつぶると砂浜を走った感触がよみがえる。
明日は雨模様らしい。

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