朝,チェックアウト後,駐車場で荷造りをしていると,係員が話しかけてきた。昨日のじいさんとは違うじいさんで親しげな感じだ。札幌ナンバーを見て驚いている。ここらまで来ると,札幌から来たというだけで話のタネになる。

さて,今日は富山まで行こうかな。先を急ぎすぎるかな。でも次の台風が近づいていて,旅の後半は天気が崩れるとの予報だし。
一応ぼくの中では「金沢をじっくり拝見」というのが今回の旅の最終目標になりつつある。だから,あとは適当に気ままに走っていればいいんだ。バイクで走ること自体がこんなに快感だと思わなかったし。
田園風景の中国道を進む。停車するとじっとり汗ばむ暑さだ。日本の穀倉地帯か。ここらはみんなコシヒカリなのかな。
しみじみとした景色に感動するにつけ,自分の目がカメラだったらいいのに,と思う。たまにバイクから降りて写真を撮っても,”その瞬間”からだいぶ通り過ぎてしまっている。一々戻ってそのポイントを探すのもナンだし,第一快適な走りを中断したくない。ヘルメットの上にカメラを乗せ,ハンドルにシャッターを付ければいいのかな。はは,それじゃヘンなオジサンになっちゃう。


日本海が目に入ってきた。晴れているが、水蒸気でぼんやり霞んでいる。なんだか懐かしさがこみ上げる光景だ。
海沿いの道端でちょっと休憩,昼飯。日本海は柔らかい日射しの下で穏やかに光っている。遠くの岬で船が霞んでいる。



のんびりした後,再び海辺の光の中を走り出す。
越後出雲崎天領の里という道の駅でトイレ停車する。良寛さんの生まれた町、芭蕉が「荒海や…」の句を詠んだ町、らしい。どうやら定休日らしく,人の影もまばらだ。
トイレが分からずきょろきょろしていると,50代ぐらいの色黒で四角い顔の男が近づいてきた。てっきり道の駅の関係者と思って,場所を教えてもらう。でも少し様子が違うし,僕がどこから来たのか,いつまで休暇なのかなど,ににこにこして聞いてくる。あ,この人もライダーだ。
色々話すと,2人連れで宮崎から来たとのこと。どうりで訛りがきつくて時々何を言ったのか分からない。でも適当に相づちを打つ。
てことは北と南からバイクで来て,今ここで,まさにすれ違わんとす,ってことか。面白いなあ。
バイクはアメリカンタイプのスティード600cc、今は売ってないらしい。自慢げだ。
「今日はどちらまで?」と聞くと
「行けるところまで」
かっちょえー。


バイクは日本海に沿って快走し,上越市に入る。
上越市は昭和46年4月29日に高田市と直江津市が合併して誕生したというから,30年前の話だ。
でも海岸沿いの道路を疾走するこの時のぼくは,(上越市って聞いたことがないなあ)とお気楽に思っているのだった。
そう,ぼくの中では未だに直江津市のままなのだ。多分小学校時代の地図帳の記憶で止まっている。このレポートを書いている今,インターネットで調べて初めて知ったのだ。でもまさか30年も前に合併してたとは,かなりガクゼン。北海道人の一般常識なんてそんなもんさ,と思いたい。
とき折り通り過ぎる集落が美しい。東北の明るさとも違う,もっと日本の伝統の深いところに根ざす湿度感というか,小路のどこかにお地蔵さんが祀られているような,そんな佇まいで,瓦屋根の家屋が連なっている。
日だまりの雑貨屋から就学前の子供が走り出てきたりする。

そんな道をしばらく走り,今度は親不知という海岸の道の駅で休憩。大きなウミガメの銅像や,翡翠や縄文土器の展示場があったりする。由来とかの看板を読むのが面倒で,その意味はよく分からない。地元もちょっと無理してるな。この海の景色だけで十分なのに。
まだ新潟県だ。地図上の長さを実感する。



国境の長いトンネルを抜けるとそこはようやく富山だった。
まず駅で一休み。田舎らしい駅だ。鱒寿司のオニギリを見つけ,食べる。
ちょうど高校生の下校時間なのか,背伸びしても純朴さが拭えない感じの学生達が,駅内外でタムロしている。他に行くところがなくて,何となく駅に集まってるのかな。
鄙びた地方駅の風情がいい感じだ。


さて,これからどうしよう。
ここに一泊して,世界遺産である五箇山,白川郷の合掌造りを見たい気もする。
でも,友達からのメールでは能登半島を回るのもお薦めらしい。
明後日は金沢市内観光と決めている。
うーん。
よし,まだまだ陽も高いし,金沢まで行っちゃお。
駅を出てうろうろするうち、北陸街道の44号線を探し当て,ひたすら進む。
途中併走して来たカブのじいさんに話しかけられる。
「札幌からズーット来なさったんか,ほー。」
僕のナンバープレートを見て驚いている。
信号待ちの間,ここらはいいところですねーとか,世間話を二言三言して,お先にと挨拶し,ビュイーンとダッシュして引き離す。
しばらくして次の赤信号。
バックミラーに先ほどのじいさんのカブが見えてきた。トコトコやってきてまた並ぶ。
もう話すこともあまりないのでお互いにこりと会釈する。
またビュイーンと引き離す。赤信号。トコトコカブが来る。
今度はじいさんも気まずくなってちょっと後方に停まる。
ビュイーン,赤信号,トコトコ。
は早く解放してくれーっ,気まずいよー。
ようやく引き離して見えなくなったが,しばらくの間,信号待ちするたびにじいさんのカブが追いついて来やしないかと,バックミラーを覗いてはびくびくしてしまった。
夢に出てきそうだ。
交通量の多い国道8号線に乗り,倶利伽羅峠のトンネルを越えると、石川県だ。
金沢に着いたのは6時半。既に暗くなっている。
ひとまず,改築中の駅にバイクを止め,茶店で1時間ほどホテル探しをする。さすが観光都市だけあって,ホテルも多い。1泊ぐらいは,と禁を破り5千円超のホテルにする。
バイクは駅舎に横付けして停めていたので,道路に出るためには駅前広場の歩道をちょっとだけ横切らなくてはならない。
ローギヤでゆっくり進んでいると,たまたま警官が歩いていて目が合い,即座に注意された。
「ここは乗っちゃダメ,押して歩いて。」
ひっ。まずい!
バイクは免許取得後1年目までに違反点数が5点を超えると,再講習を受けなくてはならないんだ。
こみんなさい,と素直に平謝り。降りて押す。
若い純朴そうなお巡りだ。
「どこから来たの」
と言われ,駐車違反でも取られては,と思い
「ちょっと駅でトイレ借りてただけです」
と神妙に嘘を付いた。
結局注意だけで許してくれた。
はー良かったー。
それに,よく考えると,あの質問は単にツーリングへの労いだったのだろう。
「札幌から来たんですー」とでも答えればもっと和んだのに。
ホテルは駅のすぐ近くで,値段相応のちゃんとした構えの建物だった。バイクは玄関脇の駐輪スペースに置かせてくれて,交渉すると車料金の半額でいいと言う。
やっぱりねー。ホテルと称するなら最低限このぐらいじゃなくちゃ。
フロントで,一泊ですねと念を押され,思わずハイと答える。ちょっと予算オーバーだから。
部屋はツインのシングル使用で,今までに比べると十分広く,快適だ。ここなら多少高くても連泊していいと思えてきた。

シャワーを浴びて外に出る前,フロントにてその意向を伝える。すると,明日はもう一杯でダメだという。チェックイン時に言っておけば良かったと後悔。
勝手の分からない街をお酒を探してうろつく。駅前からちょっと外れると,生活感が濃く,古そうな民家やオシャレなレストランが散在している。しっとりと湿った空気が気持ちいい。
ホテルに戻り,フロント横にあるビジネスコーナーでじっくり明日のホテル探しを開始。インターネットがただで使えるから。
明日は3連休の前夜のせいか,なるほど手頃なホテルは皆満室だ。さすが観光地,油断できないなあ。
とんでもなく安いところがあるにはあったが,そこに泊まった人の感想を見ると,ヒドイ評価ばかりだ。ホテルで惨めになるのもいやだ。
そんな中,ようやく見つけたのは旅館だった。といっても洋室のシングルがあり一部屋空いていた。値段も食事なしで5千円弱と手頃。そこに2泊することに決めた。
ああ,ついに金沢まで来てしまったぜい。
札幌との距離感をしみじみかみしめながら,紙コップのワインを傾ける。