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5月6日(金)

既に午後も深くなった。
空はよく晴れているが、嵐を予感させる雲が速い速度でちぎれ飛んでいく。
今日、退屈しのぎにデッキに出たのはもう何度目だろう。
純粋な移動日。来るときと違って、なんだかつまらない。

先ほど話題の「ミリオンダラーベイビー」という映画をDVDで見た。ヒロインはボクシングでの成功を目の前にして、試合中の事故で全身不随に。そして安楽死を願う。オスカーを独占したというので期待した。
しかし僕には駄作だった。むしろ不愉快だった。足を折った馬は殺して楽にしてやるという。そうかもしれない。でも人間は違うだろう。人間は馬じゃない。ハリウッド的単純さ。

海面を見つめて思う。なんだか、つまらないなあ。
それは映画のせいだけではなく、きっと旅が終わってしまうからだ。
否応なく連れ戻されている感覚。
家出少年の強制送還。
今夜小樽に着いたら、後は国道を1時間あまりで自宅だ。そして明日から日常生活に戻ってしまう。

白く泡立つ航跡を見ていると、今回の旅のいろいろな場面が思い出される。
天橋立、鳥取砂丘、秋吉台。
九州に渡ったあの時、ふと、そのまま歩いてどこまでも行ってしまいたい気持に駆られた。

そういえば、最近「蒸発」という言葉をとんと聞かなくなった。「行方不明」でもなく「失踪」でもなく「蒸発」。なんと甘い響きなんだろう。
別に現状に強い不満を感じているわけでもないのに、何か社会との関わりを断ち切ってしまいたい衝動。
そんなこと出来っこないのは分かっているけれど、何かもう一つの人生を生きてみたい気持ち。それは誰にでもあるのではないだろうか。
そんな抑えがたい願望を、合法的というか、社会に許容される範囲で行うこと。
それが「旅」なのかもしれない。

空に茜色が差してきた。
瀬戸内海ののんびりした島々や、尼崎の薄汚い工場街、それらの背景の夕焼け空が脳裏に浮かぶ。暖かくて懐かしい景色だった。
そして旅で出会った人々の笑顔。世話になったNさんの坊主頭とぼやき顔も出てきた。思わず思い出し笑いしてしまう。

そうだ。良い旅だったよなー、今回も。ホントに面白かった。
顔を上げて、潮の香りを胸一杯に吸い込んで、僕は決心した。
また、次の旅に、行くぜ。

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