2014年 読書記録

2013年 多様な世界を見せて下さい

冊数書名My評価
★五つ
コメント
6月
好きだけじゃ続かない (ビームコミックス)
松田洋子
KADOKAWA/エンターブレイン
★★★★好きだけじゃ続かない

傑作「ママゴト」が知らない間に第42回日本漫画家協会賞優秀賞と第3回広島本大賞特別賞を受賞していた。
やっぱり評価する人がいるんだと嬉しくなった。

さて表題作は、高校生の赤面するような純朴な恋を、冴えない中年となって帰郷した男の視点で振り返る。
ありきたりな田舎の背景の中で、少年の不器用さや女の子の心の揺れが、手で触れられるぐらいの近さで描かれている。
なんてことないエピソードが胸に引っかかる。思わず読み返してしまう。

それが作者が持つ天性のナニカなんだろう。
そして、心が折れた先に、救いが用意されている。
大袈裟にいえば、松田洋子はチェーホフなのかもしれない。

「平凡なヨウコちゃん」は半自伝としたら激しすぎる半生だ。
初めての家族旅行が夜逃げだったなんて。
全て実話ではないにしても、色々な心象風景を眺めてきたからこそ、非凡な漫画家松田洋子が生まれたのだろうな。
他の2つの掌編でも、悲惨な学生時代なのにどこか底が抜けた明るさがある。
境遇は比ぶべくもないが、自分も窓の外ばかり見ていたから、すごく共感できる。

放っとけない漫画家だ。
音楽(秘)講座 (新潮文庫)
山下 洋輔 仙波 清彦 徳丸 吉彦 茂木 大輔
新潮社 (2014-04-28)
売り上げランキング: 75,677
★★★★音楽(秘)講座

同時代周りのちょっとヒネた若者の例にもれず、僕も山下洋輔文化圏の住人だった時期があり、彼の音楽や著作に随分影響を受けた。
その山下が、「のだめ」の監修者でオーボエ奏者の茂木大輔、邦楽囃子方の跡取りにしてパーカッショニストの仙波清彦、山下の音大時代の恩師で音楽学者の徳丸吉彦の三人と、音楽の本質に迫る対談を行っている。
10年以上前に上梓された本の文庫化だが、その内容は何ら古びておらず十分刺激的だ。

茂木とはクラシックとジャズの接点について。
茂木がジャズへの傾倒を昔の作曲家の即興演奏などを持ち出して語るのに対し、山下は近年の自作ピアノ協奏曲などを通してオーケストラの魔力に取り憑かれた思いを披露する。

最後の徳丸とは音楽を言葉で表現すること、民族音楽からのアプローチなどを、音楽学者の手法を交えて議論している。ベトナムの古典音楽の復興に彼が多大な貢献したことは初めて知った。先日ハノイで水上人形劇の劇伴のレベルの高さに驚いたが、そういった活動の賜物なのかもしれない。

そして何と言っても仙波との対談がこの書の白眉であり、音楽を考える上での示唆に満ちている。
主に日本(or東洋)の音楽の独自性には薄々気が付いていたけれど再認識した。

日本の楽器にはサスティーン(音を伸ばすこと)がない。
それは間を楽しむからだ。
滴が谷の上から落ちる様を表すのに、邦楽では
太鼓がテンテン、ものすごい間があって、鼓がタッタッ
これをインドのタブラでやってもらったら、
タッタッ、ホールルルルッル
と全部音にしてしまう。
西欧でも同じだろう。

その他、邦楽の頭は洋楽ではアウフタクトだ、とか日本にはフェードアウトがない、和音概念がない(確かにお祭りの笛など複調音楽だ)、などなど邦楽の第一人者だからこその見識に目を見張る。

中でも感銘を受けたのは、
邦楽には拍をキープしていくという感覚はないということ。
リズムはあっても拍子の概念がないという。

僕がピアノを習い始めて、前の先生にも今の先生にもよく言われるのが、「拍感を大事にせよ」という指摘だ。
西欧音楽(含インド)の基礎は拍のキープだという認識を持つことは、とても重要な意味を持つのだ。
リズムではない。
4月
獣の奏者 外伝 刹那 (講談社文庫)
上橋 菜穂子
講談社 (2013-10-16)
売り上げランキング: 11,822

★★★★一大叙事詩「獣の奏者エリン」の外伝。

4編の情景。

「綿毛」(文庫書下ろし)と「初めての…」の二つの掌編に挟まれて短編の「刹那」、中編の「秘め事」という構成だ。

「綿毛」 赤ちゃんのエリンと母ソヨンの願い
「刹那」 イアルとエリンの出会いから出産の感動
「秘め事」 エリンの師エサルの若き日の熱い恋と諦念
「初めての…」 エリンの子供ジェシの乳離れ

生命の受け継ぎの円環構造になっている。

ただ、正直ここには男子の居場所はなかった。
出産を呆然と受け止めたり、社会のしがらみから結局自由になれなかったり、子供との距離感の違いとか。
多分、かなり身体的なセンスの違いなのだと思った。

この外伝によって、一層本編の物語のリアリティーが感じられた。
手触りを持った世界として、もしかして実際に経験したのではないかと錯覚させてくれる。
読書の醍醐味かもしれない。

春の空を見上げると、エリンが王獣に乗って飛翔している姿が、確かに見える。


付記
表紙の絵は本編のラストを想起させて素晴らしい。
ヨーロッパの装飾と文様
海野 弘
パイインターナショナル
売り上げランキング: 74,701
★★★★書店でたまたま見つけて、内容もさることながら、あまりの美しさに抗しきれず買ってしまった。
平家納経もベリー公のいとも豪華なる時祷書も手にできない僕にとって、大事に手元に置き、気が向いたら開いては目の喜びを味わいたい、そんな本だ。
3月
6
86歳ブロガーの 毎日がハッピー 毎日が宝物
繁野 美和
幻冬舎
売り上げランキング: 101,042
★★★★★2年ぐらい前だったかな。初めてブログを拝見して以来ファンになって、ずっと見ている。
そのブログが、やはりというか、書籍化された。
著者の美海(ブログ名)さんは86歳という僕の親と同じ世代のご高齢で、好奇心に満ちた日々の暮らしや思いを書き綴っている。
本は可憐な装丁が施され、縦書きになったことで、新たな印象で読めた。

昭和初期から戦中戦後の話は、親の昔語りや自分の幼少期を思い出させ、苦労がしのばれたり懐かしかったり、実体験だけにまざまざと情景が浮かんでくる。ネットやテレビがない時代だからこそ意外と皆楽しんでたんだなと感心もする。

そして、結婚、子育てと充実した人生を経て、一人暮らしとなった現在は、絵を描くことを中心に据え、楽しい交友関係を築き、それをパソコンやデジカメを使いこなしてブログで伝えている。

何と羨ましい姿だろう。自分が年を取ったらこんな風になりたいと誰もが思うだろう。

内容もさることながら、文章がうまい。リズム感や言葉の選び方はきっと天性のセンスだと思う。

そして、どうしてなのかよくわからないが、空を見上げた時のような気持ちになれる。人柄なのだろうか。世の中への意見や不安な気持ちを率直に述懐していても、どこか微笑ましい。ブログへのコメントに対する返信をみても、いつも温かい気持ちになる。

それ以上に、僕がファンになった理由は、実は年齢とは関係ない。好奇心の方向が自分と似てると思ったからだ。
子供の頃の気持ちとか宇宙論などへの興味、アートへの関心、読書傾向。上田早夕里なんて美海さんが紹介していなかったら決して出会わなかったかもしれない。一目置いてる女友達のような感覚だ。

贔屓の引き倒しにならないよう少し不満な点を挙げると、美海さんの絵や写真をもっとフィーチャーしてほしかった。
活字が大きめなのは老眼まっしぐらの僕にはありがたいけれど、それを通常のサイズにしてでも、もっとビジュアル面も前面に出してほしかったな。それがブログの魅力でもあるから。

どの世代の方にも読んでほしい。
ただ、みんなファンになってブログのコメントが大幅に増えたら、いつも全員に丁重な返事を書いている美海さんの負担になりやしまいか、と要らない心配をしてしまった。
2月
5
ルーティーン: 篠田節子SF短篇ベスト (ハヤカワ文庫JA)
篠田 節子
早川書房
売り上げランキング: 91,212
篠田節子の名前も知らないままに、書店のポップや帯にそののかされて買った。
だから、ネット購入が全てにはなってほしくない。
SF短編集ということで読みだすと、シチュエーションの違和感を提示して実はこうでした、というパターン。カズオイシグロの前駆となるような先見性もあったが、すぐに往年の星新一や筒井康隆、あるいは眉村卓などの影響を感じた。
しかしちょっと後悔しながら読み進めるうちに、作者独自の感覚が立ち上ってきた。
それは特にSFに括らなくてもいいもので、人間や人生の不条理を説明抜きで投げ出す、底知れない作品たちだった。
ビックリして、プロフィールを見ると大御所の直木賞作家なんだ。
特に感銘を受けたのは、「ソリスト」という作品だ。
ロシアの世界的女流ピアニストのアンナはある時からソロを弾かなくなる。
室内楽の日本公演を、気まぐれでドタキャンし、モスクワで同窓生だった日本人ピアニストが代りに弾くこととなる。
コンサートの途中で現れたアンナは、アンコールで十数年ぶりにソロを弾く。
ショパンの遺作のホ短調ワルツ。
なぜソロを弾かなかったのか、そして彼女の隠された過去とは。
アンナの造形には、アルゲリッチ、リヒテル、ミケランジェリらのキャラクターがブレンドされているし、この作者は音楽への造詣が深いと感じた。知識だけではなくきっとご本人の音楽的な才能故にディテールが破たんしていない。
そのほかにも様々なテイストの短編があり(「まれ人の季節」は傑作だ)、巻末にはエッセイや対談も収められていて、お勧めできる一冊だ。
1月
2-4★★★★東村アキコは、僕がまだモーニング誌を読んでた頃、突然目の前に現れた
少女マンガの方には描いていたようだが初めて知った。
「ひまわりっ~健一レジェンド~」というマンガ、最初は何だかよくわからない設定で、あんまり面白いと思わなかったが、その独自のギャグセンスに次第に飲み込まれていって、すっかりハマってしまった。
そして舞台となった南国宮崎も好きになった。
某元知事が当選する前だ。
僕にとって宮崎の顔と言えば某元知事ではなく断然東村アキコだ。
その後バイクで宮崎に行った時も、マンガの変なキャラたちを思い浮かべながら走った。
おしくも最終回を迎え、続いて「主に泣いてます」というモテ過ぎて不幸な絵画モデルという、これまたおかしな設定の作品が連載され始めた。
しかし、僕がもう漫画誌の購読をやめたので、途中までしか読んでいない。

その彼女の自伝的な話がこれだ。
書店で「過去最高傑作」のポップとともに平積みされていて、久しぶりに一冊買ってみた。
読んだら面白くて今出ている3巻まで即購入した。

漫画家になりたい夢を胸に美大を受けることとし、地元のデッサン教室の鬼教師のもとへ通う。
ようやく合格した金沢美大での学生生活。
やむなく地元に就職しながらも、漫画誌に投稿した作品がきっかけで、デビューを果たす。
3巻目でここまでだ。
それぞれの時期の交流や心の揺れがビビッドに描かれ、その都度ギャグも炸裂する。
過去に読んだ作品も、彼女の実体験から拾った素材から作られていることが分かる。
デッサン教室、美大受験や美大生活の様子も詳しく語られて、興味深いし、ちょっと羨ましい。
「のだめ~」の美術版ともいえるかもしれない。
確かに、自伝マンガとして素晴らしいと思った。

今後の展開が楽しみだ。
1
言葉の誕生を科学する (河出文庫)
小川 洋子 岡ノ谷 一夫
河出書房新社
売り上げランキング: 194,651
★★★★動物行動学者岡ノ谷一夫と作家小川洋子の対談。

タイトルから漠然と言語の構造や発達など言語学的なアプローチをイメージしていたが、むしろ、人間が何故言語を獲得したのかというもっと根源的な疑問に答えようとする研究が紹介されていた。
人間は言語を発声することのできる身体構造を持つ数少ない生物であり、同様に発音が可能な小鳥(恐竜の子孫!)の鳴き声の研究から言語の起源を探る。

言語の獲得に関わるミラーニューロンなど脳の働きの話や、時間の概念の発生、意識とは何かというところまで話題は展開し、知的好奇心を満たしてくれる。
聞き手としての小川洋子も、作家、母親としての実体験から、学者を驚かせる意見を挟む。

もちろん研究書ではないから厳密な議論は省かれていて、物足りなさもある。
しかし、なるほどそうかもと膝を打つ事例が多く紹介されていて、単なる入門書という以上に興味をそそられる内容だった。

この学者はリュートを弾くらしく、音楽との関わりについても多く言及している。

小鳥(ジュウシマツ)は求愛のために複雑な歌を歌うが、その歌に無駄が多いほどモテる。
さらに高度になるとメスに向かってではなく歌うこと自体が目的となる。
ほとんどソナタ形式の歌をつくる天才も現れる。そして早死にする。
あるいは、小鳥も練習しないと下手になるとか、音楽を聴くと体をゆする理由とか、音列が予想から外れると強い脳波が出るとか、非常に興味深い研究結果が示される。
どこかで聞いたような話ではないか。

西洋のセレナーデや、中国奥地等の歌垣(昔の日本にもあったという)の風習を見ると、言語が歌によって形成されてきたという説は頷ける気がした。

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