オリガ・モリソヴナの反語法
米原 万里 (著)
この著者の「ガセネッタ&シモネッタ」というエッセイが話題になったときに、読もうかなと思った。ロシア語通訳の凄い人で面白いよ、と言われたけれど、ちょっとこのタイトルのセンスが何だかなー、と結局読まずに忘れてしまった。
それが、文庫新刊コーナーで「〜反語法」の本を見たときには、内容よりもタイトルが気になって、読む気になった。
冷戦時代のプラハのソビエト学校にロシア人舞踊教師オリガ・モリソヴナという強烈な婆さんがいた。
「ああ神様! これぞ神様が与えてくださった天分でなくてなんだろう。長生きはしてみるもんだ。こんな才能初めてお目にかかるよ。あたしゃ嬉しくて嬉しくて狂い死にしそうだね!」
これは創作ダンスが上手くできない子供に向けた罵詈雑言である。これが「反語法」の意味だ。
当時生徒だった日本人留学生の主人公が、皆に恐れられ愛されたこの教師の過去を、ソ連崩壊後に同級生と一緒に探るというのが、おおまかな構成になっている。
その過去とは、スターリン時代の粛正を強制収容所ラーゲリで生き延びてきたという、過酷な物語だった。
オリガという名前に隠された真実、同僚のフランス語教師の悲劇、この二人を母と呼ぶ天才バレリーナの謎。悲しき反語法。国家の歴史が個人の運命を翻弄していく。
素晴らしい小説であるのは確かだ。是非一読を勧める。
歴史に翻弄された一人のアーティストの生涯。スターリン時代の市民生活。粛正とラーゲリの実態。
緻密な取材に基づいた歴史的事実の積み重ねと、謎解きの快感。ロシアの文豪小説のような大きさも感じた。
個人的には、オリガの個性が強すぎて、主人公や他のキャラクターの影が薄くなってしまったところが、物足りなかった。でもそこも書き込んだら、大長編になってしまったのだろう。文体も、小説と言うよりは、ドキュメンタリー的だった。
きっと、この著者はサバサバした明るい知的な女性なんだと思う。主人公のように。
そこが逆に小説家としての弱点かも知れない。
My評価:★★★☆☆
Tags: 書評


